粟島港に降り立った。乗ってきた船が去ったあとは、穏やかな波の音が聞こえるのみ。「何もない島」、そんなフレーズが頭をめぐる。海と山と風に、鳥の声。人の姿はまばらで、道行く人がみな笑顔で挨拶を交わしてくれるのにホッとする。
路地に入ると、昔懐かしいような、古い家屋が並んでいた。かつて、粟島では瓦の製造が盛んだったという。その名残なのだろう、ユニークなデザインの鬼瓦を幾つも見つけた。波の形や、鶴亀など、風情があって興味をそそられる。
レンタサイクルを見つけたので、自転車に乗って、東の山へ向かってみた。山の中腹から海を眺めると、打ち寄せる波が、透き通ったブルーに光って美しい。小さな浜に降りてみたり、彩り鮮やかな花が添えられたお地蔵さんを眺めたり。畑に向かうのだろうか、籠を手にした島の女性のモンペ姿が郷愁を誘う。
やがて上新田港へたどり着いた。港の近くに見つけたのは、色鮮やかな花畑「ブイブイガーデン」。魚網で使う「ブイ」で作られた人形があちこちに並んでいる。お地蔵さんに、浦島太郎と乙姫さま、笑顔はじける少年少女など、見ているとこちらも微笑んでしまう。
手がけているのは、島の人気者「えっちゃん」こと松田悦子さんだ。季節の花やハーブが愛らしい畑では、花の色を想定して種が蒔かれている。「この島で、自分も職業もゼロにしてみ。何かいいものをつかんで帰れるから」と、えっちゃん。ヤギのハナコが草を食み、ミツバチがブンブンと羽音を鳴らして飛びまわっている。そうだ、慌ただしい日常から離れてきたのだから、のんびりと島時間を楽しむとしよう。
- 粟島港から西へすぐ、レンタサイクル500円
- ブイブイガーデンには、ブイ人形も。古い家屋では、かつてタバコの乾燥室だった一角を、松田さんの個人ギャラリーにしている