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せとうち美術館紀行 第1回 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 現代美術って楽しいね!

猪熊弦一郎現代美術館に関しての対談2

理想的な鑑賞空間をめざして

山木:
2003年の草間彌生さんの展覧会も、天井の高いこの美術館の空間特性をうまく利用した素晴らしい展示でしたね。同じ年に開催された花粉や蜜蝋(みつろう)を使うアーティストのヴォルフガング・ライプの展覧会もとても印象的でした。ほかのアーティストのときにも、いつも、この美術館は展示が素晴らしいなあと思います。展示の方法ひとつで、ずいぶん作品の見え方は変わりますものね。

館長:
それは光栄です。3階の企画の展示室に入られるとお分かいただけると思いますが、非常に天井が高うございます。プランの段階では、あれより2メートル天井が低かった。実際に、建築段階に至り、猪熊先生が「ここもう少し天井が高いといいね」とおっしゃて、当初の計画よりも2メートル持ち上がったという経緯がございます。それで、こういった空間が出来上がりました。天井が高い、こういったゆったりしたところに作品をかけると、非常に心が落ち着くというようなことがありますね。

山木:
入り口から会場まで、さりげなくこう、スッっと入れますでしょ。本当に、さきほど、買物の帰りがけに寄れる美術館が理想だとおっしゃいましたけど、そういう身近さを感じますね。ですから、そのあたりの来館者の立場に立った設計の工夫が緻密に計画されているのかなと思いますけれども。それから、中二階から見渡すような空間も素敵ですね。

館長:
あそこ、いいでしょ。下の状況も見えますし、俯瞰的に、展示されている作品を眺めるっていうことは、ほかの美術館ではあまりみかけません。そういう経験ができる場は美術館に新たな魅力をあたえてくれます。それからもう一つは、照明が自然光を取り入れているっていうのもうちの特徴です。

山木:
たぶん、それがこの美術館の開放感を演出していると思うんですよ。非常に光がきれいですよね。作品を見るときには、一番光の問題が大事ですけれども、その光の取り入れ方が理想的ですよね。

館長:
どこも美術館はそうなのかもしれませんが、3階にも実は自然光が入るような仕掛けがございまして、展覧会によって、そういった、上の明り取りを開けたり閉めたりしています。

山木:
全体として、素晴らしい設計思想に貫かれていると思いますが、こちらの建築家はどなたでしたか?

館長:
谷口吉生氏です。谷口吉生氏のお父様の谷口吉郎氏が、たまたま猪熊先生とご懇意な建築家でした。そのご子息の谷口吉生氏の建築を猪熊先生が非常に高く評価しておいででした。そこで、ここを設計するにあたって、谷口吉生氏を猪熊先生が推薦されたという経緯がございます。
実際にここの建築を始めましたころに、ニューヨーク近代美術館・MOMAのリニューアルの話がありまして、コンペが行なわれることになりました。その頃のことですが、日本の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館が美術館の設計としては際立っているのではないかと関心を抱いたMOMAのリニューアル委員会のかたが、ここを実際に見に来られたんですよ。そして、その設計を行なった谷口吉生という建築家の卓越した力量について学んだはずです。

山木:
こちらの美術館をMOMAの構想検討委員会が見に来られたということですね。

館長:
はい。その結果、谷口先生にぜひコンペに参加してくれというお話があったようです。谷口先生も初め、どうしようかと思ったけれども、いい機会だから応募してみようということで応募したら、MOMAの設計者に選ばれたという経緯がございますね。ですからMOMAの雰囲気と、うちの美術館の雰囲気って、似ていますよね。ホワイトキューブって言うのでしょうか?白い箱のような。

山木:
そうですね。美術館の展示空間を指す言葉として、ホワイトキューブはよく使われます。一般の方にはなじみのない言葉かもしれませんけれども、白いキューブのことですね。大理石なのか、たぶん砂糖ではないと思うのですけれど(笑い)。そういう白いキューブ状で、清潔だけど、よそよそしいという批判を含む言葉だと思います。そういう意味ではないですよね。

館長:
よけいな飾りのない、仕立て箱のような形なんだけれども、非常に親しみのある…空間です。魅力的なホワイトキューブというべきかもしれませんね。

山木:
おっしゃる意味がよくわかります。居心地のよいシンプルな空間だと思います。

館長:
ですから、ここの美術館の鑑賞者の中にはですね、「美術館の鑑賞者」もいるんです。建築家の学生さんが夏休み、春休み、そういった時にお越しになる。建築科の学生さんたちのために、できるだけ写真OKということにしています。少しでも設計の勉強に寄与したいと考えているからです。作品を傷めるし、他の鑑賞者の邪魔になるので、フラッシュはダメですけれど、常設のところは、「どうぞ」という形です。

山木:
なるほど。そういう風に近づきやすい、アクセシブルな環境が、やはり学校の子どもたちや先生にとってもなじみやすい理由だと思います。
写真についていえば、教員の皆さんは著作権のことがあって、作品に関する写真の利用を敬遠しがちです。ですから、美術館が教育目的に限定したうえで、なんらかの便宜を図る方向は大歓迎です。鑑賞教育の発展のためには重要なことだと思います。

館長:
その点について申しますと、やはり、どうしても著作権料をいただく場合もあるにはあるのですが、学校の先生が作品の写真を教育に利用するというような場合には、担当の学芸員との協議のうえで、著作権料などが発生しないように配慮しています。

故郷を離れてはじめてわかる美術館の存在感

山木:
年間どのくらいの数の入館者がいらっしゃいますか?

館長:
年間の入館者は、13万4000人くらいです。

山木:
この規模の美術館としては多いほうでは?

館長:
県下では、そうですね。展覧会の入館者としては突出しておりますね。市民が11万人なので、11万は越えるように頑張ろうよというのが、私たちの目標です。

山木:
県外者も多いのでしょうが、計算のうえでは、さしずめ、市民1人が必ず年間1回は来ているという勘定になるわけですね。そういう、市民の中には小学生や中学生という児童生徒が含まれていると思いますが、そういう子どもたちへの関わりも積極的にされておられますよね。

館長:
ええ。開館当初から世界中の18歳未満は無料です。ですから、県外から修学旅行でおいでの生徒さんが受け付けのところで、モジモジとされていて、「いくらですか?」と聞いてくる。それで「無料だよ」と言うと、ほんとうにうれしそうに喜んで入ってくるわけです。高校生が有料のところは多いですからね。

山木:
小中学生にはどのような対応をされているのですか?

館長:
市内の小学生・中学生たちには、市のバスを利用したら、その経費を美術館が持つ制度を作っています。ですから、美術館の近くの小学生・中学生は歩いてきますけれども、8キロも10キロも離れたところにある学校からはバスを利用して来ます。

山木:
その取り組みは随分前からされていますか?

館長:
ええ、これはもう、ずっと前からしておりますね。

山木:
そうすると、猪熊弦一郎さんの思想の中にも、子どもたちに自分の作品や現代の美術を見てほしいという希望があったということですね。

館長:
先ほど申しましたように、猪熊弦一郎には確固たる思想があったんです。美術館は、先端の芸術活動を積極的に紹介する企画をしなさい。その企画を市民の方に分かってもらえるように働くのがあなたたちの仕事ですよ。そのような思想ですね。ですから、学芸員はそういった教育普及を使命づけられているということになりますね。

山木:
美術館の来館者には、小学生・中学生を含む丸亀市民が多いと思いますけれども、そういった市民の方々から反響といいますか、感想が届いていると思います。何か紹介していただけまなせんか?

館長:
たくさん感想は寄せられていますよ。夏休みに里帰りした学生さんたちの反響の中に、特徴的なのがあります。それは、学生になって、県外に出ていって初めて、丸亀の「美術館の価値」がわかったという感想です。
  東京や大阪で、「丸亀から来たんだ」というと、「あ、美術館があるところでしょう」と言われた。エッと思って振りかえって考えてみたら、小学生の頃に一度行ったことがある。それで、夏休みになって帰って、改めてもう一度見てみる。そういったお手紙をたくさん、毎年、夏休みにもらいますね。

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