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せとうち美術館紀行 第1回 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 現代美術って楽しいね!

猪熊弦一郎現代美術館に関しての対談4

MIMOCAアートカードで遊びながら、芸術に親しみを

山木:
それでは、話の流れも教育普及というということに入ってまいりましたので、ここからは丸亀市猪熊弦一郎現代美術館の教育活動についてうかがいます。「せとうち美術館ネットワーク」では、教育普及にかかわる重要な柱として、「子どものアート感想文」というものを企画しております。
子どもが何か作品を鑑賞した後に、感じたこと、考えたことを、言葉にしてみたいなぁ、誰かに話してみたいなぁと思うことは、非常に自然な感情かと私は思います。自分自身を振り返ってもそうですし、わが家の子どもたちからもそういう想いを感じ取った記憶があります。作文を奨励することに違和感をもつ美術の先生もおられるかもしれませんが、批評力を育成することは、現代の美術教育にとって、とても大切な課題なのです。
こちらの美術館が作られたMIMOCAアートカード、これを見せていただいたのですが、この中にも、「お話を作ろう」というページがあって、あぁこれはいいなぁと思いました。この「お話をつくろう」というカードでできた教材は、どのように利用するのでしょうか?

河内田:
例えば、カード2枚取っていただいて、その人物が対話しているふうに、お話を考えるんです。例えば、「お母さん」と呼びかけて、「なんだい?」みたいな感じで、どんどんお話を広げていくというかたちもありますし。実際に学校でやってもらうと、子どもたちは、とても自由にお話をつくるんですよ。なんだか、この絵は表情がちょっと沈んでいるから、暗い雰囲気なのかなとか、考えながら、いろんなお話をつくります。1枚のカードだけじゃなくて、複数枚組み合わせることで、より豊かなお話がつながっていくという遊びが、この「お話をつくろう」です。

山木:
そのほかにも色々なゲームがあるわけですけれども、どれかもう一つ紹介していただけますか。

河内田:
もう一つは、「名探偵ゲーム」というのがあって。神経衰弱の要領で、カードを表向きにして並べていきます。何人かで行いますが、誰か一人親を決めて、その親はこのカードの中から、自分の心の中だけで、「このカード」と一枚のカードを選び出し決めるんです。それから、他の参加者が、そのカードを当てるために、色々な質問をします。

山木:
絵の特徴を探り出すために、質問をして。YESとかNOとか親が答えていくのですね。

河内田:
例えば「人が描かれていますか? YES・NOで答えて」と親に質問して当てていくゲームです。

山木:
「お話をつくろう」や「名探偵ゲーム」を、河内田さんが実際に子どもを相手にされて、子どもたちの気付く力とか感じる力というのは、どうですか? 大人以上に鋭かったり深かったりすることはありませんか。

河内田:
それはすごく感じますね。大人だったら見逃してしまう細かいところに気付いています。長期間、貸し出して、使っていると、毎日カードを見ることができるので、いろいろな発見があるみたいですね。だんだん絵を丁寧に見るようになってきて、まなざしが変わってくるのを感じます。

山木:
そうですか。一度学校でこういうカードを中心に絵を鑑賞していて、もう一度本物を見に来るとやはりスケールも違いますし、それからこういうカードでは見えないタッチが見えますよね。マチエールとかね。そういう部分でまた、驚きもあるんじゃないのかなと思います。連携の流れに関して、何かお気づきのことはありませんか。学校でカードで遊んでいて、美術館に来たらこういう発見があったとか。あるいはその逆であるとか。どうでしょう?

河内田:
連携っていうことで言いますと、やっぱりアートカードを使ってから美術館に来てもらうと、絵をじっくり立ち止まって見てくれる。やっぱり一度見たことがあるものなので、「あっ、これ見たことあるな」とか「猪熊さんの絵だ」というふうに、子どもたち自身が思ってくれて、子どもたち自身が絵をよく見てくれる、それも、とても落ち着いて見てくれるという利点があると思います。

山木:
それでは、こちらでは学芸員の方が、出張授業のようなかたちで学校に行かれることも多いのですか?

河内田:
出張授業はないですね。今までの鑑賞授業は、学校側が主体で、こちらは呼んでもらって、見せてもらって・・・という感じですね。

館長:
学校の研究授業や研究会には、積極的に参加させてもらっています。私どもといたしましては、あくまでも、先生に指導者になっていただきたいわけですね。私たちが行って授業をしてしまうと、美術館なりの鑑賞のあり方というのは伝えることができるのですが、先生方が鑑賞の指導者になってほしいという願いには適いません。
MIMOCAアートカードを作りまして、これも「鑑賞のための遊び」で終わらせるのではなくて、これをきっかけにして、うちに来てくださることを期待しているわけです。実際の作品を見て、子どもたちが感じることを大切にしてほしい。そのときには、先生が一緒に来て、私たち学芸員が鑑賞の指導をするのではなくて、先生方自身が子どもたちの気持ちを引き出してあげられる指導者になってほしい。

山木:
それが理想だと思います。要するに、引率者として先生方が生徒を美術館まで連れてきて、後はギャラリートークを学芸員にお願いするというスタイルには、どうも疑問を感じてしまいます。それが悪いとまではいえないし、そのスタイルのよさもあるわけですが、やはり、あの美術館で生徒から何を引き出そうか、どのように問いかけようかなどと、自分たちの指導として、美術鑑賞の場を捉えていただく方がよいと思うんですね。

館長:
この美術館に来られて、「学芸員さん、指導をお願いします」という学校もあります。だけど、「私たちがしますので」とおっしゃる先生が、着実に増えてきています。MIMOCAアートカードを使って下さっている先生方のなかにそういう人が多いですね。

山木:
それは素晴らしいことですね。鑑賞教育を深めたり広げたりするための、一番重要な柱は、教師の力量形成にあると思います。そのためには、教師自身が鑑賞する力をつけるということが重要です。先生方ご自身が、美術館に頻繁に足を運んで、こういう作品があったんだとか、この作品は魅力的だなとか…、自分の感じや考えを言葉にしてみたり、作文にしてみたり、同僚に話してみたりする。そういうことがベースにないと、子どもたちに鑑賞が楽しいよということが伝えられないのではないかと思いますね。

ワークショップについて

山木:
こちらでは理想的な環境ともいえる造形スタジオで、定期的に表現のワークショップをされていますが、最後に、その活動を簡単に教えていただけますか?

河内田:
だいたい毎月第一土曜日に、粘土と絵の具を使ったワークショップとして、オープンスタジオ「美術館で遊ぼう」というのをやっています。絵の具と粘土を用意しており、誰でも参加していただけるワークショップです。そのほかにも、月一回程度なのですけれども、テーマを決めて、だいたい小学校から中学校くらいのお子さんに対して、いろいろなワークショップを行なっています。事前に、メールかハガキで応募していただいて、抽選というかたちで参加者を募っています。

山木:
範囲は小学生から中学生ですね。

河内田:
だいたい小学生以上が多いかな。子どもたちに対応する者が4人おります。

山木:
活動のサポートにあたられることになっているのですか?

山木:
その取り組みはいいですよね。

館長:
時々、「館長手伝いに来い」と言われます(笑い)

山木:
館長のお人柄がたぶん子どもに好かれると思うんですよ。

館長:
毎月第一土曜の「美術館で遊ぼう」の枠組みに参加される方は小学校低学年までのお子さんが多い。そこで、私が感心していることが一つありましてね・・・。
絵の具の三原色と白の絵の具、水絵の具を使って、子どもたちに「どの色がいい?」と問いかけているうちに、段々とね、この色とこの色を混ぜてほしいということになる。友だちがやっていることにお互い気が付いてくるわけです。そうすると、巧まずして、三つの色を混ぜると色々な色ができるのか、というようなことを、「あぁそうか」とお互いに学びあう、自分で気付く。そういった気付きが、非常にうれしいですね。
それと、粘土っていいですよね。耳たぶくらいの硬さの粘土に触れて、そこから始まるものづくりの魅力は強いですよ。ですから、毎月第一土曜日をとても楽しみにしている親子がいますね。

山木:
リピーターですね。

館長:
そうですね。あのワークショップは、ぜひ今後とも、しぶとく続けていきたいですね。

猪熊弦一郎の工作

山木:
猪熊弦一郎さんも、こちらが発刊された図録「開館10周年の猪熊弦一郎のしごと展」に、たくさん、掲載されていますが、身近なものを使って、オブジェをたくさん作られていますよね。まるで、子どもの造形遊びのなかから生まれたもののような印象です。そういう作風と、身近なもので創りたいものを創る子どもたちの活動は、どこかに通じるようなものがあると思います。

館長:
猪熊先生はヘビースモーカーでした。ところがあるとき、奥さんにも止められ、お医者さんに止められたらしい。誰でも禁煙すると、イライラするじゃないですか? それを紛らわしたい気持ちも手伝って、一生懸命色々な材料で、針金細工のようなものを創った。その結果、小さな虫のような、動物のような魅力的な作品がたくさん生まれた。これらの作品を見ながら、「あ、こういうの、面白いな」と子どもたちが思ってくれれば、うれしいですね。

山木:
入館者の中で、子どもたちはショーケースに入った、あの小さいオブジェを関心を持って見るんじゃないかと思いますね。本当に魅力的ですもの。

館長:
そうですね。私も、定期的にあのショーケースの前にたたずんで、眺めることにしています。長い間、あそこで眺め続けていましてもね、まったく飽きないんですね。
だからこそ、こういった楽しい表現活動を子どもたちにもしてほしい。

山木:
やはり、鑑賞と創作活動とが、有機的にからんでいくといいですね。今後のワークショップの中で。

館長:
そうですね。そういった構えというものが、今、必要なものだと思いますね。

山木:
本日は長時間のインタビューにおつきあいいただき、ありがとうございました。

館長:
こちらこそ、ありがとうございました。

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