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せとうち美術館紀行 第7回 兵庫県立美術館

兵庫県立美術館 西日本最大級の美術館は見どころ満載

8,000点を超えるコレクションを誇り、安藤忠雄氏設計のスケールの大きな建物がシンボリックな兵庫県立美術館。彫刻・版画、具体美術など現代美術が充実し、兵庫ゆかりの小磯良平、金山平三の作品が常時展示されています。週末にはコンサート、映画、子どものプログラムなど多彩な芸術文化イベントが開催され、大人から子どもまで思い思いに過ごせます。

ミュージアムショップ

ミュージアムショップ
エントランス近くにあるミュージアムショップ。ポストカードやステーショナリー、美術書籍など豊富なグッズが並びます。

レストラン

レストラン
神戸を代表する新進気鋭の石井シェフプロデュースのレストラン「ラピエールミュゼ」。特別展にちなんだフレンチ・メニューを味わえます。

誘導灯と大型曲面ディスプレイ

円形テラス
安藤忠雄氏が設計した建物は内外が有機的に連携し、まるでアートのよう。

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兵庫県立美術館に関しての対談1

■出席者

鳴門教育大学大学院教授 山木朝彦さん(以下山木)
兵庫県立美術館館長 蓑 豊さん(以下館長)
同館広報専門員 中嶋 美香さん(以下中嶋)
同館教育普及担当学芸員 遊免 寛子さん(以下遊免)
同館教育支援・事業グループ 小野原 由美子さん(以下小野原)
同館特別展・国際交流グループ 速水 豊さん(以下速水)

■対談日

2011年5月28日(土)

震災からの文化の復興を目指して

山木:
兵庫県立美術館の設立目的を教えていただけますか。

館長:
阪神・淡路大震災からの「文化の復興」が一番大きな目的です。被災された方々の心のケアが美術品を通してできたらと,巨大な美術館が生まれました。
もともとはここから歩いて20分ぐらいのところにあり、兵庫県立近代美術館という名前でした。現在そこは「原田の森ギャラリー」になっています。日本最初の近代美術館は1951年にできた神奈川県立近代美術館で、兵庫県立近代美術館は2番目、1970年に開設され、非常に歴史があります。その兵庫県立近代美術館が震災でダメージを受け、建物は崩れなかったのですが,建物自体が何十度か動いてしまったので,この地に移りました。
ここは神戸製鋼と川崎重工の工場があった跡地です。それを兵庫県が再開発に着手し、美術館をメインに、国際的に関係のある団体や会社などが誘致されたのです。最初に誘致されたのは、美術館の隣にあるWHO(世界保健機構)です。WHOはここが日本のメインとなる場所です。その隣にJICA(国際協力機構)があります。その隣は「人と防災未来センター」。地震でいろいろな経験をしていますから、たくさんの人に防災について知ってもらおう,考えてもらおうという施設です。震度7の震災の衝撃を体験できます。この「人と防災未来センター」には修学旅行生が年間約50万人訪れます。特に今は東日本大震災があったため,防災の意識が人々を捉え,多くの人が訪れています。

山木:
兵庫県立美術館の年間の入館者数は,どれくらいですか。

館長:
年間100万人が目標です。

山木:
年間100万人ですか。それはすばらしい。

館長:
去年が83万人でした。今年はもう少し目標が大きいので,これから頑張らないといけないのです。

大型ディスプレイと誘導灯で親しみやすさを演出

山木:
この美術館に入ってきたとき、ガラスのドームの中に大きなプラズマディスプレイがあり、そこに映し出された映像のなかで,蓑館長がわかりやすく美術館の説明をしてくださいました。入館者に対して粋なお迎えですね。なんて気さくな方なのだろうと今日の対談も安心しました(笑い)。そういう意味であのディスプレイは非常に画期的ですね。

館長:
ああいうのはあまりないでしょう(笑い)。

中嶋:
館内に入るまでにワンクッションおき、美術館の紹介やメッセージを流して親しみやすさを感じていただこうという目的があります。

山木:
斬新なアイデアですね。

館長:
あのディスプレイは兵庫県の神戸が生んだ企業(篠田プラズマ社)が開発したものです。通常,ディスプレイはフラットな面だと常識的に考えられていますが,あれはカーブして曲面構造になっています。その卓越した技術はこの会社のオリジナルです。

中嶋:
世界初の技術です。

山木:
それで少しワイドに画像の中も外も,空間が広く感じたのですね。

中嶋:
そうです。カプセル状の透明なドームの中に入ると特にそう感じるでしょう?

館長:
そして建物は、世界的な建築家の安藤忠雄さんの設計です。親しみを持って入っていただけるように、北入口につながる屋外通路には,飛行場の滑走路のようなイメージで誘導灯が設置されています。気がつかれましたか。

山木:
ええ,もちろん(笑い)。それも蓑館長がアイデアをお出しになったのですか。

館長:
そうです。入り口が暗いのでもっと親しみやすくしたいと考えました。金沢21世紀美術館みたいにガラス張りの建物ではなく、石でできた堅固な建物ですから,入り口の印象をすこし和らげたいと思いました。神戸が生んだ企業である株式会社ロックフィールドにスポンサーになっていただき、誘導灯をつけてもらったのです。こうした経緯で,「ロックフィールドの灯り」と名付けています。

山木:
我々は飛行機が誘導灯に導かれるように,この美術館に招かれたわけですね。

中嶋:
金曜日と土曜日は20時まで夜間開館していますので、夕方にお越しになるときれいな光に誘われてお入りいただけます。

山木:
あれはダイオードですか。

中嶋:
LEDです。お子様に人気です。

館長:
電気代もかかりませんから。

山木:
そういった美術館の環境作りについて、蓑館長は金沢21世紀美術館で経験をお積みであると伺っています。あそこでは,開館前からご尽力なさってこられたのですね。入館者がどのように身近な環境で美術館を楽しめるか、アグレッシブに提案する要素も必要でしょうね。美術館という場の雰囲気について何かお考えがありますか?

館長:
一般に美術館というとすごく暗くて、入りにくい特別なところだというイメージがあると思います。そうした美術館のイメージを変えて、家族で来られる美術館、子どもたちもぶらっと立ち寄れる美術館にするのが私のコンセプトです。
金沢21世紀美術館もそれで大変成功しています。子どもが美術館に来る際に,なにか威圧感みたいなものを感じないでほしい。そういう美術館にしたいのです。
子どもが来るということは親も入りやすい。親子が美術館という文化の殿堂で共に楽しめることが,豊かな感性の形成につながります。まず美術館に「来る」ということがすごく大事なんです。来るとやっぱり素晴らしいということが実感できるし、感動してもらえます。「また来たい」、そう思わせる美術館にしていかないといけないと考えています。
大きなディスプレイ画面でみなさんをウエルカムの姿勢でお迎えし、そこで帰ってもらったら困るので,中まで入っていただくための誘導灯までつけたのです。こういう姿勢が大事だと考えています。美術館のイメージを少しでも明るく変えたいのです。

山木:
モニターに映っている景色も海側が見えていて、明るくていいですね。

館長:
私は大好きなんです。この美術館は、南から船で来ると一番きれいに見えます。海から見たこの建物は本当に素晴らしいですよ。普通の日は体験できませんが、「神戸ビエンナーレ」が10月から始まり、その期間中は船でここの岸壁に着岸できるようになっています。前回の「神戸ビエンナーレ」でも,体験されたみなさんは本当に感動しておられました。

山木:
どこから乗るのですか。

中嶋:
三ノ宮の隣の元町からです。遊覧船のような小型の船が、今年はポートアイランドから出る予定です。

山木:
それはビエンナーレの期間だけですか。

館長:
そうです。

中嶋:
10分から15分ほどの昼間の船の旅です。本当に気持ちがいいですよ。

館長:
ぜひ体験してください。

山木:
そうですね。参りたいと思います。

子どもが美術館へ行きたくなる教育を

山木:
子どもにとって身近な美術館ということを強調される背景には、館長が長らくアメリカやカナダの美術館でお仕事をされていた機会に、家族連れで美術館に来る入館者を多く見かけられたからなのでしょうか。

館長:
そうです。60%が家族連れです。
日本では個人で美術館に来ることが多いですよね。日本では家族連れで美術館に入っても、監視の人の目が非常に厳しく、子どもはあまりしゃべられず、美術館に来るのが嫌になります。大人も静かにしていないといけないという気持ちが先に来て,なかなか楽しめない。せっかくのいい作品なのに,作品についておしゃべりするとすぐに怒られてしまいます。そういう美術館は嫌なので,何とか全国的に変えたいと考えています。

山木:
美術関係者自身に「子どもにはアートは難しい」とか、「少しわかりづらいんじゃないか」という思い込みがあるのかもしれないですね。

館長:
親も子どもにアートを語れない。自分のプライドがあって、子どもに質問されてもうまく答えられないので美術館に連れて来られない。それが日本の美術館の「アート」なのです。

山木:
学校も同じかもしれないですね。先生が子どもを美術館に案内するとき、自分自身がうまく語れる自信がない。もしかすると,そういう心理が働いて,学校で美術館に来る機会が少なくなるのかもしれませんね。

館長:
子どもは家に帰って、「美術館に行ったけれども先生は何も知らなかった」とたぶん話すでしょう。それが嫌で、結局連れてくることができないのだと思います。
だけど,教える,教えられないと,見栄を張る前に,自分でアートを知ることができれば,自信を持って子どもに説明できます。当館には教育支援というグループがあり、ボランティアの人も勉強をしているので、そういう人たちと協力しあえばよいのではないでしょうか。

山木:
保護者の方々や先生自らが行きたいと思わないと、「教育上必要」と言うお題目だけでは,なかなか重い腰は上がりませんね。

館長:
はい。自信があるところにしか連れて行かないです。

中嶋:
当館にはミュージアム・ティーチャーがおり、美術鑑賞のために先生のサポートをしています。ボランティアもおり、ご案内して一緒に鑑賞する試みをずっと続けています。お手伝いはたくさんできます。

山木:
学校の先生は、引き出すとか、一緒に楽しむ、語り合うとかではなく、「教える」ことに集中するので,そういう傾向が出てくるのでしょうね。

館長:
そうです。教える事にあまりにも集中しすぎます。ご両親も教えてくれるのが先生の役目、教育とは,答えをもらえるものだという発想があります。
山木先生がおっしゃったように、教育というのは引き出すものだと思っています。ヒントを与えることが先生の役目で、答えを出すことが役目ではない。ヒントを与えることが教育だということが浸透すれば、こういう答えを教師に求めるという考えは出てこないと思います。
答えを出さなければいけない、教えなければいけないというのがあるから、美術館に連れてこられないのです。我々は先生を集めてアートに関する情報をいろいろ提供していますし、自由に見ることの大切さも伝えている。それでも先生たちはなかなか生徒を連れてきません。
「答えはひとつではない」ということをぜひ生徒にもご両親にも教えてほしい。それが先生の役目ですから。

山木:
いくつもの解釈があるわけですから、そういう教育がいいですよね。解釈の可能性を広げていくと、やがて心眼で物を見る目も養われるのではないかと思います。

館長:
はい。英語の単語もシチュエーションによっていろんな意味になります。だからみなさん正確に訳したくても訳せない。つまり,文脈によって,いろんな答えや意味が生まれるということを子どもたちにもっと知らせなければいけません。
答えは一つではないという教育をすれば「教育というのは楽しいんだ」「習うというのはこんなに楽しいんだ」と思います。こどもたちに考える楽しさというものを体験させ,その感覚を覚えさせないとだめです。美術館でもその楽しさを覚える。これが一番です。

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