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せとうち美術館紀行 第10回 広島市現代美術館

広島市現代美術館 身近で心に響く現代美術に親しもう

広島市現代美術館に関しての対談2

美術館を飛び出し、医学資料館で鑑賞ツアーを実施

山木:
こちらの美術館で開催された特別展の関連プログラムで気になっているものがあります。以前、医学的な身体の資料を見学するツアーを行われたとか。

「解剖と変容:プルニー&ゼマーンコヴァー」

山下:
「医学資料館で解剖図を見る」という鑑賞ツアーのことですね。2012年5月から7月にかけて開催した特別展「解剖と変容:プルニー&ゼマーンコヴァー」の中で実施しました。

山木:
その特別展はどういう内容だったのですか。

後藤:
「解剖と変容」というタイトルで、2人のチェコのアール・ブリュットの作家を紹介しました。2人とも“身体”というものにとても興味を持っていて、ある視点では解剖だったり、あるところでは身体を抽象的に変容させて描いたり、身体とアートの関係にフォーカスしています。

近くに広島大学の大学病院があり、そこの医学資料館に解剖や身体にまつわる資料があるということで、参加者みんなで企画展を鑑賞し、その後歩いて医学資料館へ移動し、医学の知識を持つ館長がお話しをするという鑑賞ツアーを組みました。

山木:
作家は、ルボシュ・プルニーさんとアンナ・ゼマーンコヴァーさんの2人ですね。鑑賞ツアーで立ち寄った医学資料館について少しお話しください。

対談イメージ

館長:
「広島大学医学部医学資料館」には、広島の医師・星野良悦が1791年に初めて解剖をし、その後、原田孝次という細工師が300日かけて完成させた木製人骨があります。その木骨は、当時木骨を所有されていた後藤家から寄付していただいたものです。木骨は、舌骨と耳の中の6つの骨が欠けていますが、残りはきれいに揃っています。解体新書を書いた杉田玄白が知ったら、びっくりするほど、素晴らしいもので、重要文化財に指定されています。余談ですが、この医学資料館は日本の医学部としては初めての本格的な資料館でして、私が広島大学の学長時代につくられたものです。その折りには、内外の稀少な専門書をたくさん寄贈しました。

山木:
鑑賞ツアーではそういう話をされたのですか。

館長:
テーマが「解剖と変容」でしたから、この木骨を紹介しました。医学資料館には、この木骨とともに、レオナルド・ダ・ヴィンチの解剖手稿(複製)があります。そこで、これらの展示物を見ながら解剖にまつわる話をしました。

2人の作家が描いた作品は、解剖と言っても作家が自分の体に興味を持ち、人間の身体を想像しながら描いているのでおもしろいんですよね。きわめて変わった描き方をしていて、とても繊細です。

私はローザンヌにある世界一のアール・ブリュット美術館でそうした作品を見ていますから、アール・ブリュットとは何かという話とともに、解剖の話を交えて、解説したわけです。

SNSや動画を利用して興味をひきつける

山木:
ところで、ホームページを見ると、Facebook、YouTube、Twitterのマークが目に飛び込んできました。

館長:
それは広報スタッフが、学芸員たちと一緒にやってくれています。現在、かなり広報の仕方が良くなったと思っています。それまでは広島市内にポスターを貼るだけでしたから。ポスターを貼るだけだと十分ではありません。先日も中国新聞に「靉嘔展」の情報を取り上げてもらえないだろうかという要望を伝えました。中国放送は、広島市で開催されるイベント情報として、当館の催しを伝えてくれています。

山木:
どこの美術館もそうなのでしょうが、NHKの「日曜美術館」などで取り上げてほしいという思いは強いでしょうね。

館長:
はい、「日曜美術館」に取り上げてもらえるようにアプローチしています。以前、オノ・ヨーコさんがヒロシマ賞を受賞されたときに取り上げてもらいましたが、そういうときでないとなかなか取り上げてもらえないですね(笑)。

山木:
後藤さんは広報担当ですが、情報発信力についてどのように考えておられますか。新しいメディアとしてYouTubeやFacebookも活用されていますが。

後藤:
現在はネットの時代ですから、webを中心にした情報発信が欠かせません。当館のさまざまなプログラムをホームページだけでなくて、動画やオンタイムのつぶやき、それに、Facebookを利用して、情報発信していきたいと考えています。そのための専門の広報スタッフもいます。

山木:
例えばYouTubeではどんな内容を流しているのですか。

後藤:
YouTubeでは、展覧会の会場風景などを動画で撮影して流しています。

山木:
著作権の問題は大丈夫ですか。

後藤:
作家に了承をいただけた場合に行います。

山木:
そういうことができるんですね。美術館に行く前にどんな感じかある程度イメージできると、かえって行ってみたいと思うことが多いですよね。

対談イメージ

後藤:
そうですね。展覧会を全部見せずに、少しだけ見せる、そのあたりは気をつけています。現代美術はアーティスト本人がその場で展覧会を作っていくので、そのプロセスが垣間見えるような動画にしています。

ある企画展では、アーティストの家まで行って作品を集荷し、アーティストもトラックに同乗して広島にたどり着くまでの道のりを、アーティストの人となりを紹介しながら動画でアップしました。このように展覧会ごとに見せ所を伝えたいですね。

山木:
しばらくの間は見ることができるのですか。

後藤:
当館のチャンネルをつくって蓄積していますので、ずっとご覧いただけます。

山木:
どのくらいの数の動画を配信しているのですか。

後藤:
子ども向けのワークショップの様子も含めて15本ぐらいですね。

山木:
子ども向けのワークショップの様子もYouTubeで見られるのですか。

山下:
はい。肖像権の問題をきちんと確認してアップしています。ただし、ワークショップだとごちゃごちゃしてしまい、動画にするとどこを切り取っていいのか難しいときがあります。子ども向けのワークショップの場合は、動画よりも、どちらかというと写真に撮って、Facebookであげて紹介するというかたちの方が説明しやすく、ご覧になる方も多いようです。

山木:
なるほど。合唱や演奏会への参加も、演劇への参加も同じでしょうけれど、事前にある程度、実際の活動はこんなことをするのだとわかっているほうが、ワークショップには参加しやすいと思います。ですからFacebookなどに情報を提供されているのは画期的で、とてもよいのではないでしょうか。参加者も、参加したワークショップをもう一度振り返って見られるのは楽しいでしょうね。

山下:
「いいね」というボタンがFacebookにありますが、子供の写真やワークショップの写真を載せると評判がいいですね。開催前に「こういうワークショップをします」と紹介すると、「来たい」という人が多いです。

山木:
事前に載せることもあるのですか。

山下:
はい、告知というかたちで載せることがあります。そうして終了後に写真を載せると、「子どもの表情がいい」と言ってくださる方がいらっしゃいます。

1000人のチェロ・コンサート

館長:
広報の仕方が美術と音楽では違いますね。音楽は切符を売るでしょう。チケット代をもらうと、確実に来場されます。私自身、「1000人のチェロ・コンサート」を広島市で開催したときは4500人のお客様が来てくださいました。そうすると広島市の活性化につながります。
東北では、チャリティとしてリサイタルを開催しました。2012年11月末に東北へ行き、リサイタルの収益を震災で被害を被った方々に寄付しました。

山木:
そうなんですか。立派な活動をなさっておられるのですね。

作品

東北の震災に関連して、福島第一原発の問題があります。非常に重い話題ですけれども、人類の過誤,そして罪深さを反省して将来の展望を拓くという意味からいえば、見据える必要がある問題です。

同じく、世界遺産の考えを借りると「人類の負の遺産」として原爆の問題があります。こちらの美術館は、ヒロシマ、原爆をテーマとした作品をたくさんコレクションしていますが、人類の過誤,そして罪深さを再考するうえで、あらたな意味を持つかもしれません。

例えば、岡本太郎の《明日への神話》の、壁画にする前の油彩作品があります。この美術館が存在している意味と必然性を考えさせられる作品ではないでしょうか。

建築のアーカイブづくりに取り組む

外観

山木:
そういえば、美術館の建物自体も—これは黒川紀章さんが設計されたわけですが—屋根が切れた部分は爆心地に向いています。野外にあるヘンリー・ムーアの《アーチ》という彫刻の先も同じく爆心地を向いています。象徴的な意味合いを持たせているのですね。

館長:
黒川紀章さんは、そこをきちんと考えて作っていらっしゃいます。

山木:
そういう点では、建築の学生がさかのぼって黒川さんの仕事を見て歩く、学習するという恰好の場でもありますね。
黒川紀章さんは、埼玉県立近代美術館や和歌山県立近代美術館、名古屋市美術館など、美術館をたくさん設計されています。

イメージ

館長:
実際に建築をテーマにした企画展を開催すると、たくさんの来場者があります。私が館長職から退職しても、引き続き取り組んでもらえるように、お手伝いしていきたいと考えています。

山木:
現代美術はジャンルを超えているところが特徴だと思います。こちらの美術館では映像の展示を積極的にされていますけれど、動画や写真、建築、パフォーマンス、インスタレーションといったすべての表現媒体を含んでいるのが現代美術です。だから建築に焦点を当て、アーカイブを作っていくというのはすごく重要なことですね。大分市などでは建築家・磯崎新の資料館として、「アートプラザ磯崎新記念館」がありますから。

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