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せとうち美術館紀行 第11回 ふくやま美術館

鑑賞して、つくって、市民に開かれた美術館

せとうち美術館に関しての対談3

岸田劉生、大村廣陽を中心に日本美術の魅力に触れる

山木:
最近は学習指導要領で学校の教育内容を規定していて、小学校の学習指導要領や中学校の学習指導要領で日本の美術がクローズアップされてきています。

例えば中学校の学習指導要領では、「日本の美術の概括的な変遷や作品の特質を調べたり、それらの作品を鑑賞したりして、日本の美術や伝統、文化に対する理解と愛情を深めるとともに諸外国の美術や文化との相違と共通点に気づき、それぞれの良さや美しさなどを味わい、美術を通した国際理解を深め、美術文化の継承と創造への感心を高めること」という文章が記載されています。

館長は書を中心に日本の美術に対して大変造詣が深くていらっしゃいます。こちらの美術館がお持ちの日本の有名な作品について、ぜひこれは見てもらいたいという作品をご紹介いただけたらありがたいと思います。

対談イメージ

館長:
岸田劉生が最晩年に描いた《麗子十六歳之像》が当館の目玉になっています。子どもの頃の麗子像はたいていの教科書に載っていますからご覧になったことがあるのではないでしょうか。ちょっとおっかない顔つきの作品ですね。

当館にあるのは成長した麗子像で、日本髪の綺麗なお嬢さんを見ることができます。他の美術館にも積極的に貸出をしていて、多くの人に見ていただき、こういう麗子像もあるということが広まってくれればと願っています。

山木:
少女の麗子像と比較することによって、子どもの成長とともに岸田劉生自身の画業の変遷も見ることができるとても興味深い作品ですね。 他に、日本の伝統的な美術作品はありませんか。

館長:
日本画でというと、地元出身の作家で大村廣陽でしょうか。

対談イメージ

山木:
ちょうど今(2015年2月3日~4月5日)、特集陳列もされていますね。竹内栖鳳に師事した日本画家で、帝展を中心に活動されたとか。

館長:
全国的には知られていないかもしれませんけれど、福山出身の大家と言っていいんじゃないでしょうか。当館にはデッサンから完成した絵まで、魚も含めて動植物のこういう見方があるのかとわかる豊富な資料があり、大いに研究していかないといけない課題だと考えています。作家の制作の経緯がわかるという点でいい財産を持っているという気がします。

山木:
地元作家として、郷土ゆかりの日本画家として、これからもっと市民にも日本中のみなさんも知っていただきたい作家ですね。 《南国の水辺》という屏風仕立ての作品がありますが、この作品についてもお話いただけますか。

谷藤:
ある時期、大村廣陽はインドネシアや台湾など南の方にずいぶん行って、こうした動植物のスケッチを描いています。若い頃は動物が得意で、鹿を描いたり、牛を描いたり、ヤギを描いたりということをやっています。

この《南国の水辺》という作品までは描きすぎるぐらい装飾的に描いていたんですけれど、川の中に水牛がいることをテーマにすることによって装飾性をいかに少なくして六曲一双という大きな画面を見せるものにしていくかということに挑戦したのだと思っています。水牛の全体像と、背中の一部だけ見えている姿を描きながら重々しい水牛を軽やかに涼やかに表現し、非常に成功した作品ではないでしょうか。

この時期はいわゆる絵画全体でいうと南方憧憬の時期で、ゴーギャンの影響で南の風景を極彩色で描かれることが多かったんですね。大村廣陽も同じように南国の鳥であるインコなどを極彩色で描いたりしていました。それからもう少し踏み込んで、精神性を描くというふうに移行した時期ではないかと思っています。

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山木:
1人の作家の中で作風が変わっていったわけですね。《軍鶏》という作品は若い頃に作られたのですか。《軍鶏》に比べると、《南国の水辺》ははるかに装飾性が省かれてシンプルになっているんですよね。それでいながら非常に雄大で、悠然と水牛が泳ぐ様が描かれていて境地が変わってきたのかなという気がいたします。

館長:
非常に対照的だと思います。鳥や鹿は明るくシャープに全体を描いているのに比べ、水牛は描いていないんだけれども見えるように描いているといいますか、そういう表現はちょっと東洋的で思想的な感じを受けますね。

対談イメージ

山木:
なるほどそうですね。 大村廣陽の他にも著名な日本画家や油絵画家の作品をお持ちです。例えば、須田国太郎あたりは人気があるということですが、アピールしていただけますか。

谷藤:
須田国太郎は京都の画家ではありますが、瀬戸内圏ともちょっと関係があるんですね。尾道に小林和作という画家がいて、何度も訪ねています。そうしてこちらに来ているうちに福山のコレクターがついて、たくさん作品を購入してコレクションを作っていったわけです。

当館にある《冬の漁村》という作品は、京都の丹後地方の風景を描いています。須田国太郎はスペインに留学してバロック的なものをマドリードで模写し、日本に戻ってきてからは水墨をベースにしながら日本的な油彩を求め、日本独自の油彩表現をした人だと思います。これは福山にいたコレクターがコレクションした作品の一部で、それを当館で購入したものです。そういう意味で非常に親しみのある作品になっています。

山木:
日本の近代だけでなく、元永定正、李禹煥(り うーふぁん)、中西夏之、山田正亮(やまだまさあき)、河原温(かわらおん)、荒川修作など日本の現代を代表する作家たちの作品も収集されていますね。

谷藤:
当館ができた1980年代は、日本の現代美術が世界的に非常に評価されてきた時期だと思います。特にアメリカやヨーロッパに出た作家たち、河原温であり荒川修作であり、そのあたりの評価が固まっていくのが1980年代です。

日本の現代の作家でありながら世界をリードする作家でもある人たちの作品を見ながら日本の戦後の美術の流れがわかるようなコレクションにしていこうと積極的に購入しました。

具体の作家たちについても西日本の美術館はかなり持っていますけれど、白髪一雄にせよここ最近はアメリカのほうで展覧会をやっていますので市場価格がものすごく高くなっています。今購入しようと思ったらまずできないコレクションになりつつありますね。

山木:
具体の作家たちは本当に海外での評価が高くて貴重なコレクションになっていますね。 むしろ孤高の作家といいますか、特異な作家ですけれども、若くして作品制作から離れてしまったということもあって三木富雄の《耳》は貴重ですね。

谷藤:
そうですね。異色の作家として名高いですが、「耳」シリーズは小さい耳から非常に大きな2~3mの耳までいくつかバージョンがあり、当館が持っているのはちょうどいい耳と思っております(笑)。

山木:
わかります(笑)。この作品は1年を通じて見ることができますか。時々しか見られないですか。

谷藤:
時々ですね。なにしろコレクションが3,000点ぐらいあり、1回の展示に使うのが100点弱ですから、なかなか全部を見られる機会はありません。

山木:
全部を見ようと思ったらたびたび訪れないといけないですね(笑)。

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