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せとうち美術館紀行 第13回 大原美術館

幅広い作品群を収集し、成長を続ける、日本初の私立の西洋近代美術館

大原美術館は、岡山県の倉敷美観地区の一角にあり、日本最初の西洋美術中心の私立美術館として設立されました。そのコレクションは西洋美術にとどまらず非常にバラエティに富み、常に新しい美術の動向に目を向け、現在も作品が増え続けています。展示だけでなく美しい建物やワークショップなども魅力で、訪れるたびに新しい体験ができます。

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対談イメージ

■第1回

対談日:2010年4月7日(水)
対談参加者(敬称略):
 岡山大学大学院 教育学研究科 准教授 赤木里香子(以下赤木)
 大原美術館 副館長 虫明 優(以下副館長)
 大原美術館 主任学芸員 鬼本佳代子(以下鬼本)※当時

対談イメージ

第2回

対談日:2017年3月7日(火)
対談参加者(敬称略):
 鳴門教育大学大学院 教授 山木朝彦(以下山木)
 大原美術館 副館長 虫明 優(以下副館長)
 大原美術館 学芸課(社会連携班)  竹本 暢子(以下竹本)
 大原美術館 広報担当リーダー 板谷 弥恵(以下板谷)

第1回大原美術館に関しての対談1

◆第1回~大原美術館の設立目的とその魅力

アーティストの教育を経て、今の時代を反映する収集・展示へ

赤木イメージ

赤木:
まず大原美術館の魅力についてご紹介ください。

副館長:
大原美術館は昭和5年(1930年)に設立されました。西洋美術を展示する私立美術館として日本で一番古いことに間違いないと思います。スポンサーは地元の倉敷紡績の社長・大原孫三郎で、西洋美術の作品を選んだのは児島虎次郎という画家です。児島虎次郎が昭和4年に亡くなり、その死を悼んで設立されたのが大原美術館です。

当時、西洋美術を目指す画家はヨーロッパに留学して学んでいました。同じように児島虎次郎も大原孫三郎がスポンサーとなり、ヨーロッパに渡って勉強に励んでいました。さまざまな絵を見る中で「日本で勉強するみんなにも絵を見せたい」と思うようになり、大原孫三郎に絵の収集を申し出て、了解を得て、収集することになります。

個人の趣味で偏ったジャンルを選ぶのではなく、その時代の絵画を幅広く紹介したいと「現存するその時代の幅広い絵を集める」を目的に収集し、創立当時からアーティストの教育的な意味が成り立ちにあります。この設立背景が現在の「教育」という活動へつながっているのではないかと考えています 。

鬼木:
「大原美術館といえば印象派」というイメージをお持ちの方がたくさんいらっしゃると思います。実際に印象派の良い作品が収蔵されていますが、それ以外にも非常に幅広い視点で集められています。当時の同時代のドイツやスイス、児島虎次郎がベルギーにいた関係でベルギーの絵画もあります。印象派を見に来たけれど、「ほかにも面白いものがある」という発見のある美術館でもあると思います。

赤木:
設立当初の雰囲気を見せるような展示を最近はされているように思います。印象派だけでなく、みどころが他にもあるというあたりをお聞かせいただけますか。

館内イメージ

副館長:
大原美術館には昭和5年に建てた本館と、同じ敷地の中に分館、工芸館、東洋館、少し離れたところに児島虎次郎記念館があり、それぞれの館が特徴を持っています。本館は西洋絵画が中心で、児島虎次郎が収集した以降も作品の収集を続けており、現代美術にいたるまでの一連の流れをご覧いただけます。

分館は日本人が目指す洋画の一連の流れをご覧いただけます。主要作品は、岸田劉生や安井曽太郎などから、現存する現代の日本人アーティストが一連に並びます。分館と工芸館の収集につきましては、戦後、孫三郎の長男である總一郎の力が非常に大きく影響しています。

収集のポリシーについて、孫三郎は「今を生きる人のために」という思想があり、西洋絵画を今勉強している人のために絵を収集して展示することが中心でした。總一郎は「美術館は時代と共に生きて成長する」と常に時代を反映した形で収集を続け、革新的な新しい試みの作家を中心に集められました。

このような視点で日本人の作品が集められていますので、それを受けた我々は、總一郎の死後も引き続き今の時代を反映する作家の作品の収集を続けています。特に地下の展示室はその色合いが濃く、ご覧いただければ非常に興味深く楽しんでいただけるのではと思います。

工芸館・東洋館は、孫三郎がもともと日本民藝運動を支援しており、柳宗悦に関連するアーティストの作品を展示しています。浜田庄司、バーナード・リーチ、富本憲吉、河井寛次郎というところから、棟方志功の版画、芹沢銈介の染色。工芸館の空間デザインは芹沢先生がされ、大原家の米蔵を改装して芹沢先生の独自性が生きた興味深い造りで、それぞれの作家の個性に沿ったスペースになっています。

東洋館には、現在では国外持ち出しが難しいものも含め、中国古美術の非常に興味深いものが展示されています。

館内イメージ

最後に児島虎次郎記念館ですが、ここには児島虎次郎の絵画を中心に展示しています。本館の正面玄関入ってすぐの所に児島虎次郎の「和服を着たベルギーの少女」がありますが、大原美術館の成り立ちを表す絵画としてみなさんをお迎えしています。記念館では彼の絵画の変遷なども楽しめます。

虎次郎は3回ヨーロッパへ行き、船旅の帰路にエジプトなどにも立ち寄っています。ヨーロッパの芸術の原点はエジプト・中近東ではないかということだと思うのですが、そのあたりの収集も行っています。記念館の中にはオリエント室があり、ここにそれらを展示しています。非常に貴重な展示作品で、専門家の方々にも驚きと興味を持って見ていただけるものです 。

鬼本:
大原美術館というと古いものがあるというイメージがあり、実際に古代のものも持っているのですが、常に現代美術を集めているという側面もあります。“古くて新しい”多面的な美術館で、いろいろな人に楽しんでもらえるのではと思います。

赤木:
意外にも幅広い、と。

鬼本:
そうです。(中国・殷時代の)甲骨ト辞から、現代美術まであります。

赤木:
古代中国やエジプトまでさかのぼっていて、すごいですね。

 

倉敷らしさの薫る、歴史的建造物

本館イメージ

赤木:
本館の建物は古代ギリシャ風ですね。

鬼本:
本館はアールデコです。建物も面白くて、「建物探訪」というものを行いました。本館、分館と美観地区の街並みを見るという企画で、講師の方を呼んで実施しましたが、非常に面白かったですね。建築家の工夫と、その後に変化したところがあり、作品の保全上、窓は少し塞いだところがあるのですが、実はもっと開放的な空間だった、窓はものすごくあったなど古い美術館だけに保存の歴史も見てとれました。

赤木:
ずいぶん以前に訪れたときはまだ絵の横に窓があり、そこからアイビーがのぞいているという記憶があります。

鬼本:
そうなんです。実はガラス対応(窓)だったり…。分館も今は重厚なイメージがあると思いますが、本当は外光の反射光が入ってくる軽い光にあふれた美術館だったとわかりました。

本館イメージ

副館長:
本館は薬師寺主計が設計しています。有隣荘も薬師寺主計の設計です。有隣荘は通常は非公開ですが、年2回春と秋に2週間一般公開しています。その北側には中国銀行の前身で 第一合同銀行の倉敷支店として建てられた建物があります。現在は中国銀行倉敷本町出張所(2016年3月に倉敷駅前支店に統合され、建物は大原美術館に寄贈)となっていますが、これも薬師寺主計の設計です。

鬼本:
3つの建物は一直線に建っているんですよ。

副館長:
どれも非常に特徴のある建物です。なかでも有隣荘と大原美術館本館については、児島虎次郎の意見もあったはずで、薬師寺と児島の意見のせめぎあいといった視点からも興味をもって見ていただけます。建築の好きな方には、本館と有隣荘を見比べていただくと面白い発見があるのではないでしょうか。

有隣荘イメージ

赤木:
倉敷らしさがぎゅうぎゅうに詰まった場所ですね。大原美術館の周囲をぐるっと見渡して倉敷らしさがあると思う場所は、児島と薬師寺のいろんな思いが重なってできた場所という感じでしょうか。

副館長:
分館は浦辺鎮太郎の設計です。倉敷国際ホテル、倉敷公民館など、倉敷の街並みを作った建築家が分館を設計したということで、倉敷のイメージが分館の建物にも見られます。

赤木:
本館・分館・東洋館・工芸館と特色のある建物があって、しかも特色ある展示、収蔵品も非常に幅広い。そこが大原美術館の大きな魅力ですね。

 

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