HOME > せとうち美術館紀行 > 第13回 大原美術館

せとうち美術館紀行 第13回 大原美術館

幅広い作品群を収集し、成長を続ける、日本初の私立の西洋近代美術館

第2回大原美術館に関しての対談4

中村彝(つね)作「頭蓋骨を持てる自画像」イメージ

おすすめ作品と将来の展望

山木:
今日はせっかく副館長やみなさんにいらしていただいているので、お一人ずつ「これを見てほしい」という推しの一作を教えていただけませんか。

まず私からあげますと、中村彝(つね)の「頭蓋骨を持てる自画像」。あの作品には、ずっと前から、偏愛といってもよい感情を抱いています。疲れ切った体を気力だけで奮い起こし、絵筆を握る彝の感覚が生々しく伝わってくる凄味のある絵だと思います。

板谷イメージ

板谷:
私が入社当時に一番好きだったのは、ヴォルスの作品です。小さくて電話しながら落書きするような絵です。

山木:
いい絵ですよね。私も好きです。

竹本イメージ

竹本:
私はルチオ・フォンタナ(の「空間概念 期待」)が好きです。美術の大学に行って具象絵画を描いていたのですが、行き詰まったときに(切り裂かれたカンヴァスの)鋭い切り口を見て「ハーッ」と思ったことがあるんです。

また最近好きな作品がもう一点あって、それがジョルジョ・デ・キリコの「ヘクトールとアンドローマケの別れ」という作品です。幼稚園児のプログラムでお話作りというのがあり、幼稚園児と一緒にあの絵を見てお話を作っていきました。その内容がすごく面白くて、一気にこの絵が好きになりました。

子どもたちのお話は「二人のへんてこロボット」というタイトルで、「顔は鉄でできていて、上半身も鉄でできている。下半身は木でできていて、強いのか弱いのかわからないへんてこなロボットがいました…」というものです。作品をよく見て作ってくれています。足が弱いので木で支えている、女の方のロボットも足を曲げすぎると壊れてしまうから小さい木で支えている、そういう細部まで細かく見て物語ができていました。

山木:
そんなに高度なお話を幼稚園児は作れるのですか。

竹本:
そうなんです。肩のぐるぐるから剣みたいなのが出ているのですけれど、それが剣になったり、女の人の胸の中にはカメラが内蔵されていたり、鍵を持っていたり。それに沿った内容でいろいろな話ができるのだなということを感じました。

山木:
素晴らしいですね。作品にそういうものを引き出せる力があるということですね。

竹本:
幼稚園児が5、6人のグループになって作るので、いろいろな子の意見を取り入れ、お互いの意見を出し合いながら進めています。

山木:
そういう方法が一番楽しくていいと思います。
今回の、小学校・中学校の学習指導要領の改訂の背景には、大学教育の現場で導入されていたアクティブラーニングという考え方があります。この考え方は,小さな子供たちにも有効で、グループで話し合いながらいろいろな意見を出し合うことが、とても大切だと思います。

クロード・モネ作「睡蓮」イメージ

副館長:
私のおすすめの作品は、クロード・モネの「睡蓮」です。
日本の他の美術館にも「睡蓮」はたくさんあるのですが、当館の「睡蓮」が一番だと思います(笑)。

児島虎次郎がモネのアトリエに行って選んだのですが、一度行ったときはモネがちょうどオランジェ美術館の大作の創作にかかっていて手頃なのがなかったそうです。1カ月後にもう一度行くわけですが、そのときにモネ自身も何点か作品を用意してくれていて、その中から選んだ作品だそうです。日本的なんですね。なんとなくもやっとどんよりした感じがあって、私は非常に好きです。

実はこの作品が大原美術館の幼児教育の始めた頃の象徴になっています。水面に浮かぶ空や木を子どもたちにも感じてもらいたいというワークショップの中で、「何が見える?」と聞いたら、ある子が「カエルがいる」と言ったのです。「どこに描いてあるの?どれがカエルに見えるの?」と聞くと、「今潜っているからもうすぐ出てくる」と。そういう話があり、子どもたちの発想のすごさを感じました。それで余計に好きになりました。

山木:
この絵の本質をどこかで見抜いているのかなという気がします。そういうふうにフランクに接することができるのが子供の良いところですね。

山木:
最後に未来への展望をうかがいたいと思います。この先も歴史ある大原美術館が発展していくためにいろいろなご尽力や試行錯誤をされていると思いますけれど、空想的なものも含めて、こういうことがしてみたい、こういう方向が見えてくるのではないだろうかというご提言なり、未来への希望なりをお話しいただけますか。

副館長:
大原美術館には多様なコレクションがあります。児島虎次郎が日本で洋画を学ぶ人たちに本物の作品を見せるためにコレクションしていったので、好き嫌いというよりも、いろいろなジャンル、いろいろな国々のものを勉強になるという信念で幅広く集めてきました。それとは別に、独自に児島虎次郎がヨーロッパでエジプトや西アジアの美術品をたくさん買ってきています。日本に帰ってきてからも中国へ4度ほど行って中国の古い美術品も集めています。そうして児島が集めてきたものも含めて、中国の古い美術品と、古代エジプト・西アジアの古い美術品を東洋館や児島虎次郎記念館にあるオリエント室で展示しています。

対談イメージ

実はこのコレクションですが、専門の学芸員が当館におらず、またエジプト・西アジアといっても狭い範囲の研究者しかいないということからなかなか体系的な研究ができていませんでした。それが5年ぐらい前からいろいろな研究者の方々に調査をしていただき、岡山市立オリエント美術館の学芸員さんにも御協力いただき、作品の全貌が見えてきました。その段階でかなり貴重なコレクションだということがわかりました。もちろん以前から貴重だといわれていたのですが、なぜ貴重かが今回の研究で少しずつわかってきたのです。この陶片の片割れはもしかしたら大英博物館にあるのではないかなど、コレクションの成り立ちの元のところからたどれば相当貴重なコレクションです。

山木:
いわば眠った宝のような形で意識されているということですね。

副館長:
そうですね。もう少しきちっと調査・研究して、みなさんに見ていただけるようにしようと考えています。現在のオリエント室では十分ではないのではないかということで、研究を始めたころから新しい展示館が欲しいという話をしていました。

たまたま昨年、有隣荘の北側にある中国銀行の倉敷本町出張所が、倉敷駅に大きな支店をつくったことでそこを引き上げることになり、大原美術館に寄贈するという話になりました。登録有形文化財で、この地区は伝統的建造物群保存地区ですから外観を変えるわけにはいかないですし、非常に成約の多い中ですがいろいろ工夫しながら古代エジプト・西アジアの美術品を展示するスペースにしようと計画を進めております。少なくとも3、4年後には新しい展示館としてお見せできるようにします。それが当面の大事業です。

山木:
期待しております。本日はありがとうございました。

 

前のページへ