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せとうち美術館紀行 第13回 大原美術館

幅広い作品群を収集し、成長を続ける、日本初の私立の西洋近代美術館

第1回大原美術館に関しての対談4

大人向けのワークショップ、対話型鑑賞「フレンドリートーク」も人気

副館長 イメージ

副館長:
子どもたち対象のプログラムのほかに、大人のワークショップという観点から、週末に「フレンドリートーク」という対話型鑑賞のプログラムも行っています。毎週土曜日の午後1時30分と日曜日の午前11時から開催しており、その時間に来てもらえば当館ボランティアのアテンダント・スタッフが、一緒に対話しながら鑑賞のサポートを行います。

鬼本:
もともと当館の学芸員が毎週日曜日に大原美術館の歴史と作品について解説しながら館内を案内(ギャラリーツアー)していました。しかしアテンダント・スタッフの方々が「チルドレンズ・アート・ミュージアム」や、対話型鑑賞ツアーで培ったスキルを普段使わないのはもったいないと「土日にやってみませんか」と提案し、やるようになったわけです。お客さんと近い視点で作品を見ることができ、とても良かったと思います。なかには30~40人のお客さんを集めてしまうような人もいらっしゃって、すごくいい雰囲気で行われています。

赤木:
ボランティア・スタッフの方はどのくらいいらっしゃるのですか。

鬼本:
現在48名で、公募で集めています。

赤木:
研修はどのようなことをされるのですか。

鬼本:
研修は10回で、前半が美術館の機能と、当館もコレクションについて話をします。後半は対話型鑑賞のために作品をイヤというほど見て、発表しあい、ギャラリートークの練習を発声練習なども交えて行います。

赤木:
遠くまでよく聞こえるように、ですか。

鬼本:
いえ、逆です。美術館ですからあまり遠くまで聞こえず、それでいてある程度は聞こえるように、です。

赤木:
対話型ギャラリートークの方法はどんなものですか。

鬼本:
全国的にどの美術館でも対話型ギャラリートークというのをやっていると思います。当館でもそれほど変わったことはしていません。目的は、こちらが一方的に話すのではなく、参加者であるお客さんが「自分の目で作品を見るためのサポートをする」ということです。例えば、「何が見えますか」「どんなことがこの絵の中で起こっているのでしょう」など投げかけをして、みんなでディスカッションしていきます。

赤木:
私の母も2年前くらいにギャラリートークに参加して非常に楽しかった、こんなことは初めてだ、と喜んで帰ってきました。高校卒業の頃にギャラリーコンサートを聴き、70代になってからギャラリートークを楽しみ、本当にお世話になっています。

対談 イメージ

鬼本:
嬉しいです。ヘビーユーザーでありがとうございます。

副館長:
さらに知識を高めたいという方は、日曜日の午後1時30分から、「大原美術館 その歴史と作品」で学芸員の持っている知識をみなさんに聞いていただくツアーをやっていますので、お好みによって両方経験していただければと思います。

赤木:
対話型ギャラリートークを行っているときに、知識がほしいという反応があるときはどうされているのですか。

鬼本:
最初に約束事として、「30分でだいたい3点くらいの作品を見ますが、時間は大丈夫ですか」「対話型ギャラリートークは、私が説明するのではなく、みんなで一緒に作品についてお話しするものです」とインフォメーションしてもらうように伝えています。「違う」と思われた方はそこでパッと離れられることもあります。

副館長:
個別の作品解説については音声ガイドもありますから。

赤木:
そうするとすれ違いは起こりにくいですね。

鬼本:
「何か違う」と思われる方もいらっしゃるでしょうし、逆に「面白そう」と入って来られる方もいらっしゃいます。

赤木:
「何をやっているんだろう?」と興味を持って、途中からどんどん参加してみたくなるということでしょうね。これもチルドレンズ・ミュージアムでされていたことから生まれたのですか。

副館長:
そうですね。いろいろな試みの一つとして子ども向けにやっていく中で、大人向けにもそういう鑑賞の仕方が出てきました。学芸員による作品解説は歴史的に古くから行っていたのですが、子ども向けのフレンドリートークから、大人も興味を持って聞いていただける形で定期的にやっていこう、と。これも週1回が2回になり、アテンダント・スタッフの成長と参加になり、といった具合に変化しています。

赤木:
どんどん広がってきたということですね。アテンダント・スタッフの方々は他にもお仕事があるのですか。

鬼本:
学校団体が来たときに、「対話型ギャラリートークをしてください」という要望がある場合は一緒にやっていただいています。手荷物預かりもお願いしています。

 

いつ来ても、いつもとちがう美術館

鬼本:
余談ですが、2009年に「大人の秘密の愛の詩」というプログラムを行い、大人の心を持っている子どもも参加可としました。マティスが挿絵を描いたロンサールの愛の詩集があり、詩の部分をとっぱらったものを3冊用意しました。ハッピーな恋、悲しい恋、失われた愛の詩(ロンサールの詩より)として、コンシェルジュ役の学生さんが「あなたにぴったりの愛の詩はどれですか」と問いかけ、絵を見て、一人1ページずつ愛の物語を書きこんでもらいました。意外に書き込みが多く、まじめに描いていらしてびっくりしました。チルドレンズとは言っていますが、親子で来ていただき、親の方も結構楽しんでいただいているようです。大人だけでも参加できます。

赤木:
その日に行くと、いつもと違う美術館に出会えるという感じでしょうか。毎年参加していると、美術館を自分の庭のように感じるなど一人ひとりが入り込む瞬間を感じられ、面白いですね。なかでも「作品を前にして自分の目で見られるようになる」というのが一番大切なことだと思います。そのためのいろいろな仕掛けが「チルドレンズ・アート・ミュージアム」にあると思いました。

本日はどうもありがとうございました。

 

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