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せとうち美術館紀行 第16回 ひろしま美術館

印象派を中心に親しみやすい名画がそろう癒やしの空間

ひろしま美術館に関しての対談4

私立美術館ならではの企業連携を生かして地域に還元

対談の様子

三根:
ひろしま美術館は私立の美術館であり、広島銀行という企業そのものが他の企業と経済的なつながりを持っています。それを通してできあがってきた人間同士のつながりが、教育普及などの事業に大きなプラスの影響を与えているように感じます。

副館長:
大きいですね。幹部同士はライオンズクラブや商工会議所、同友会といった場所でしょっちゅう顔を合わせています。例えば「こんな事業があるんだけれどどうだろう」という話が出たときに「それいいじゃない」と、トップ同士ですぐに決まるということがあります。意思決定の早さが私立美術館の良さだと思います。来年度の予算はどうするかということについても、公立美術館では予算どりがあったり、新しく始める事業はいろいろな手続きがあったりすると思いますが、私立美術館の場合はもちろん各企業で予算立てはありますけれど、トップ同士が合意すれば非常に早い。今の世の中は美術といったものに対する事業を理解していただける風土ができつつあるので、実施や継続、発展ができています。今もそうですし、リーマンショックの時もそうでしたが、経済の波があって、不景気の時は一般企業はさまざまな経費を経営的に出しづらくなります。そういうぶれはありますけれど、長い目で見れば充実できる素地はできつつあり、もっといろいろな形で拡大、充実させていければと考えています。

対談の様子

古谷:
三根先生はよくご存じだと思いますが、当館はヨーロッパ型の税金で経営する美術館ではなく、日本では珍しいアメリカ型の美術館経営をやっていると思うんですね。だからこそ地域に還元する事業を行うことが大事だと考えています。

三根:
ひろしま美術館が広島という地域に対して提供しているものやことはすごく大きいですね。美術館が社会に関わり、無形のものを提供していく、今でいうメセナ活動のようなものを、開館の42年前からずっと続けてこられています。

話が戻ってしまいますが、初代の井藤館長は広島銀行の100周年事業としてひろしま美術館を開館されたわけですが、メセナ活動をどのようにつなげていこうと考えておられたのでしょうか。

副館長:
地域があって銀行経営は安定します。それを地域に還元するべきだという思いがあったと思います。ですから100周年事業として、美術館の設立だけではなく、幼稚園や保育園をつくり、それ以外にもいろんなことをやっています。当時は美術館をつくったり、高い絵を買ったりするぐらいなら利息を負けてくれという話もよくあったと聞いています。それもある意味で世の中への貢献でしょうけれど、少し次元の違う、ある意味でスケールが違う社会的な還元として美術館を着想したのだと思います。

三根:
広島からひろしま美術館がなくなることは全く考えられません。それぐらい存在感が非常に強いです。

副館長

副館長:
そういっていただけるとありがたいですし、そういうふうでありたいと思います。それは行政の後押しがあり、公益財団法人ひろしま美術館として国有地であるこの場所を広島市の管理のもとで無償で借りているということもあります。絵はひろぎん(広島銀行)のもの、建物は財団のものというすみ分けはありますが、うまくマッチしているひとつの例なのかもしれません。

名前も“ひろぎん美術館”にしなくて良かったというのもあります。企業名を出すと「この美術館は広島銀行がやっているのか」となりますが、あえて“ひろしま”という名前にしたことで地元の共有の財産という認識が育まれます。そこから協力しようじゃないかという機運が生まれると思うんですね。

三根:
確かに広島市民にとっては旧広島市民球場と同じように、ひろしま美術館は自分たちのもの、けっしてなくならない、なくしてはならない自分たちの財産という感覚があるような気がします。

副館長:
初代館長の思い通りではないでしょうか。あえて名前をひろしま美術館にして、地元のみなさんのものですよ、そういうふうに発展させましょうと、そういう方向になったのだと思います。

古谷:
地域の方々に還元したいという思いをひとつずつ実現していっているんです。

三根:
そういう意味では“ひろしま”と平仮名で書かれているのがいいのかもしれませんね。

副館長:
そうですね。カタカナでも漢字でもなく、“ひろしま”というのは丸みがあって美しいです。

三根:
広島の郷土や広島市民の願いを背景にして、提供し提供されをうまくやりとりされ、この広島の地に心地よい文化空間を共につくりあげている美術館だと思います。これからもさらに発展され、広島に薫り高き美術文化を届け続けられることを願っています。
本日はありがとうございました。

 

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