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せとうち美術館紀行 第12回 呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)

戦艦大和を建造した呉の歴史に日本の近代化と未来を見る

呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)に関しての対談2

専門知識を持ったボランティアをはじめ、地域とのつながりを重視

井上イメージ

井上:
大和ミュージアムが目指す方向性を6点あげていらっしゃいます。「呉の歴史がわかる博物館」「科学技術の素晴らしさ・科学原理のわかる博物館」については先ほどお聞きしましたが、「地域と一体となった博物館」ということを象徴するようなものはありますか。

館長:
ボランティアさんですね。大変多くの方が応募してくださって常時100人ぐらい登録があり、土日は20人ぐらい出てもらっています。みなさん非常に熱心です。ボランティアさんたちだけでも研修会をやったり、よその博物館に見学会に行ったり。つい2ヶ月前ぐらいには6人ぐらいが戦艦ミズーリに自主的に計画して研修旅行に行かれていました。

井上:
すごいですね。ボランティアは市民のみなさんですか。

館長:
ほとんどが地元の方々です。広島の方から来てくれる人もいますね。IHIで船をつくっていた人や、南極観測船で何度も南極まで行ったような人とか、展示に対して何らかの形でプロ的な知識を持っていて、私たちもいろいろ教えてもらわないといけないような人がいらっしゃるので非常に心強いです。

井上:
まさに宝ですね。

館長:
そういう所が本当に地域との接点だと思います。

井上:
となりますと、「市民の自発的な学習を支援する博物館」とあげられているのがボランティア活動を通してできますね。

館長イメージ

館長:
そうです。私もボランティアさんに発破をかけられて、時々、講座などを行っています(笑)。館内では私が一番年上だけれど、ボランティアさんはもう大先輩がぞろぞろおられますからね。私の方が生徒です。

井上:
「人が集まり、情報を受・発信する博物館」という点についてもお聞かせください。

館長:
博物館のステータスというのは、そこにしかない資料をどれだけ持っているかなのですね。当館は呉の造船の歴史に関する博物館ですから、当然ながら日本の軍艦の建造の歴史や技術の発達の歴史などの一次資料をたくさん持っています。日本の軍艦の写真や図面の資料については世界一のコレクションがあるわけで、軍艦の写真は世界中のものを集めて10万枚ぐらいあります。1800年代半ば以降の世界中の軍艦の写真なら9分通りあります。それだけのスケールのコレクションは世界でもそういくつもないです。そういうものを蓄積できたということで、雑誌やテレビなどで必要なときは大和ミュージアム提供というクレジットをつけて使ってもらっています。それがひとつの広報になり、館としての情報発信の具体的な作業になると思っています。

井上:
なるほど。最後にあげていらっしゃる「楽しむ場となる博物館」の楽しいものとは何ですか。

館長:
「楽しい」というのは本当は難しいところがあります。私はこの仕事で初めて呉に来たので知らなかったのですが、港町だから海岸線がきれいで瀬戸内海の景色で良いところがいっぱいあるだろうと思っていたら、産業の町なので海岸線の良いところはみんな使われていて、意外と臨海公園として良いところはないんです。そこで周辺を整理して海辺に公園をつくったわけです。呉市の中でもわりと珍しい臨海公園になっていて、いつでも無料で入れるので、海の見える場所として使ってもらえるところがひとつの楽しみだと思います。

テラス イメージ

あとは会議や集まりで使ってもらえるスペースをいくつか確保し、いろんな団体がグループ活動の場として使っているところですね。
バルコニーが4階にありますが、ここは呉市で一番眺めの良いバルコニーで港や江田島、造船所を一望できます。夏に花火大会があるのですが、見物に一番良い場所なのでみんなが押し寄せて大変なことになると思ったので、その日だけは一般の方はクローズして、障がい者の団体の方と話をして車いすなどで普段外に出られず、特に雑踏になる花火大会などに行くことが難しい人を毎年招待しています。そういう意味で良い形で使えていると思っていますね。

井上:
市民にとって憩いのモニュメント的な存在にもなっているんですね。

 

JAXAや日本宇宙少年団と連携、未来の科学技術へ子どもたちの興味をかきたてる

井上:
学校との連携にも力を入れていらっしゃると思いますが、例えば金沢21世紀美術館ですと金沢市内の小学校4年生を全員招待するということをやっています。

館長:
当館も呉市内の小中高生は全員無料です。小学校4年生は地域の歴史、自分の生まれた土地の歴史勉強として、校外学習で全員必ず1度は来るようになっています。これはオープンの時から私は言っていて、実現するまでにずいぶんかかりました。教育委員会などとの調整や学校それぞれのカリキュラムがありますから、そういう中にカリキュラムを入れるというのは意外と難しいのですね。

井上:
子どもたちが来館したときはどなたが解説されるのですか。

館長:
きちんと研修を受けたボランティアさんが説明しています。場合によっては学芸員も説明します。

井上:
子どもたちの反応はいかがですか。

館長:
小学生なのでちょっと難しいかなというのがありますが、「昔すごいことがあったんだな」というイメージでいいと思うんですね。それで興味を持ってもらって、高校、大学になって何度か来るうちにだんだん内容を理解していくんじゃないでしょうか。最初のステップは興味を持つということだけでいいと思います。

井上:
そういった子どもたちがまた家族を連れて戻ってくるみたいな…。

館長:
そうですね。小学生の時に見て、中学校、高校で興味を持って、例えば工学系に進みたいという人が増えればそれで成果だと思っています。

科学コーナー イメージ

修学旅行でも毎年2万人以上は来てもらっているんですよ。当館の名前がなかなか迫力があるので、学校の先生は「最初は看板だけ見てちょっとどうかな、大丈夫かなと思っていたけれど、下見に来たら非常に展示がニュートラルでおもしろいですね」と言って必ず生徒さんを連れてきてくださいます。

井上:
サイエンスショーやワークショップ、教室なども開催されています。

館長:
JAXAや日本宇宙少年団との交流が活発ですね。JAXAは当館を高く評価してくださっていて、情報があるとだいたい真っ先に見せていただけます。小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還して持ち帰ったパーツと砂のかけらを一般公開するときは、展示公募では当館が全国初だったんです。
歴史というのは過去完了ではなく、過去の技術が未来につながっています。当館の展示は、技術というのは未来技術までずっとつながっていてその一部を展示しているという意識でやっていますので、宇宙技術やロケットといった話ももう少し力を入れたいとJAXAからいただいた情報で映像を流したり、珍しい資料があるときは企画展をやったりというのを時々入れています。

JAXA映像イメージ

井上:
科学技術となるとどうしても男性が多いイメージがあります。

館長:
それが来館者は男女比4:6ぐらいでそんなに変わらないんですよ。年齢は60代いっぱいぐらいまでほぼ均等です。昔はもっと高齢の人がいたのですがだいたい亡くなってしまいました。オープン当時は戦艦に乗っていたようなおじいちゃんがよく来られていましたよ。そういう人たちは最近減っていますけれど割合年齢層は均等です。家族連れが多いせいもあるでしょうね。こういう固い技術系、科学系の施設としては女性の比率が高いです。

井上:
それはちょっと意外な感じがしました。

 

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