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長大橋の保全技術(維持管理設備)

動態観測システム

本州四国連絡橋の吊橋や斜張橋は、一般の橋梁の規模をはるかに超える長大構造物のため、風や地震などの自然外力による変形が大きく、かつ、挙動も複雑です。長大橋の挙動については、設計時において詳細に検討されています。しかし、実際の挙動を観測することにより、設計手法の妥当性が確認できるほか、長期にわたる維持管理において健全性の評価を行う判断材料とできること、そのデータを将来、橋梁の設計に役立てることができることなどの利点があります。

そこで、吊橋や斜張橋の挙動を定時的に観測し、また、強風時や地震時の応答を観測できるシステムを構築しました。なお、観測設備は強風時および地震時に確実にデータ収録できるシステムであること、また、観測データとシステム自身の監視ならびに障害の通知機能を有することに重点をおいています。

たとえば、明石海峡大橋には、風向風速計9台、加速度計および速度計各17台、変位計7台、地震計3台、および、GPS(Global Positioning System;汎地球測位システム)観測機3台が設置されており、各種データの蓄積を行っています。

なお、GPSを常設し、吊橋の挙動を長期にわたり連続計測するのは明石海峡大橋が初めてです。

点検補修用作業車

明石海峡大橋を始めとする本州四国連絡橋は、いずれも海上の高所にあり、桁上は自動車、桁下は船舶、また、瀬戸大橋では桁内に列車が往来しています。

このような厳しい環境のもと、構造物の点検や設備の点検などを、安全・確実かつ効率的に行えるように長大橋にはそれぞれ専用の点検補修用作業車を設置しています。

点検補修用作業車は、橋梁の構造に応じ、桁外面作業車、桁内面作業車、塔作業車、ケーブル作業車などがあり、本州四国連絡道路全体で155台設置されています。

これらの作業車の主要部材には、アルミニウム合金を使用し、耐久性の確保と自重の低減に配慮しています。


【トラス橋用桁外面作業車】


【箱桁用桁外面作業車】


【明石海峡大橋桁内面作業車】


【大鳴門橋桁内面作業車】


【櫃石島橋塔作業車】


【ケーブル作業車】


【ケーブル作業車】

主塔点検ロボット

長大橋梁の主塔には防錆と景観維持のため塗装が施されていますが、塗装は経年劣化するため全面塗替間隔の途中において点検が不可欠になります。従来は接近手段としてゴンドラ設備に限られてきましたが、大がかりな段取りが必要なため、簡易に鋼壁面の状況を撮影可能な主塔点検ロボットを開発しました。

このロボットは、鉛直な主塔鋼壁面に磁石車輪により自力で吸着し、ボルト添接部も乗越えることが可能です。また、カメラ装置を搭載したロボットは、主塔基礎上から操作します。これにより、約280mの高所壁面においても安全かつ容易に点検が可能となりました。


【主塔点検ロボット】

鋼ケーソン壁面清掃装置

鋼ケーソンの腐食を防ぐ電着工法を施工するには、事前に壁面の清掃作業(ケーソン壁面の海洋生成物、錆、その他付着物等を除去する作業)が不可欠となります。この作業は、従来ダイバーによって行われていましたが、効率が悪く、水深が40mより深くなると実施が困難になります。このため、地上で遠隔操作してケーソン壁面を清掃するケーソン壁面清掃装置を開発しました。

操作はケーソン上から遠隔で行い、高圧ウォータージェット噴射器によりケーソン壁面の海洋生成物、錆、その他付着物等を除去します。

磁石車輪でケーソン壁面に連続して吸着するため、2ノットの潮流でも機械の揺れはありません。本装置を使用することにより、ダイバーによる人力施工に比べ、施工能率、海中作業の安全性、経済性、清掃の品質も飛躍的に改善されました。


【ケーソン壁面清掃装置】

磁石車輪ゴンドラ

鋼橋の塗装の塗替えは、一般にゴンドラで行われますが風で揺れやすいため、高所になるほど稼働率が低下し、塗装の品質、作業効率が悪くなります。また、風によりゆれるため、塗料が飛散しやすくなり、大がかりな環境対策が必要となります。このため、鋼壁面に永久磁石で吸着しながら移動できる磁石車輪ゴンドラを開発しました。

磁石車輪には、希土類ネオジュウム磁石が内蔵され、1車輪あたり最高2500Nの力で常に壁面に吸着するため揺れません。また、ステアリング機構により任意の位置に安定した移動が可能です。

磁石車輪内部の磁石は、車軸を最大吸着力が得られる任意の方向に固定できるため、どのような壁面でも常に最高の吸着力が得られる構造になっています。また、車輪の表面はゴムで覆われているため、塗膜を破損することはありません。

磁石車輪ゴンドラには、塔柱用、斜材・水平材用があり、塔の全面に接近することができます。


【塔柱用 磁石車輪ゴンドラ】


【斜材・水平材用 磁石車輪ゴンドラ】

真空吸着車輪ゴンドラ

海浜部のアンカレイジや高架橋脚等のコンクリート構造物の保全では、塩分の進入や中性化による内部鋼材の腐食等の劣化が生じるため、定期的な点検調査、劣化防止、修復等の保全作業が重要になります。これら作業の接近方法には、枠組足場や高所作業車がありますが、適用箇所が大幅に限定され、基部への侵入が困難な場合があります。これらを満たす接近手段としてゴンドラがありますが、ゴンドラは風で揺れるとともに、作業反力の確保や安定した補修作業が困難で稼働率が低下する難点がありました。このため、これらを解決する真空吸着車輪ゴンドラを開発しました。真空車輪ゴンドラは、コンクリート壁面に真空で吸着しながら昇降するため、風による揺れは皆無であり、ドリル等を壁面に押し付けてもゴンドラが離れることなく反力がとれ、地上作業と同様に安定して穿孔作業等が可能です。さらに、車輪の伸縮機能により、段差のある壁面でも安定した乗越え動作が可能となっています。


【真空吸着車輪ゴンドラ】


【真空車輪】


【段差壁面走行状況】

吊橋ハンガーロープ(CFRC)ケレン装置

吊橋の鞍掛け形式のハンガーロープ(CFRC)は、防食手段として塗装が施されていますが、塗装は経年劣化するため定期的な塗り替えが必要となります。その前処理として劣化塗膜を除去する素地調整作業は、これまではゴンドラに搭乗した作業員のディスクサンダーによる人力での作業となるため、施工能率の向上と作業粉塵の飛散対策が必要でした。

そこで、これらの課題を解決する素地調整装置を開発しました。素地調整装置は、円筒内部に上下4段のブラシを有しハンガーロープ(CFRC)へ均一に接触するよう全周面に配置され、上下に往復振動しながらロープの表面の塗装や錆を除去します。また、素地調整装置をゴンドラに取り付けて上昇・下降するとロープの撚りに沿って回転しながら全周面を研磨します。除去した作業粉塵は、集塵機で集塵するため飛散を防止することができます。


【ハンガーロープ(CFRC)ケレン状況】


【ハンガーロープ(CFRC)ケレン装置】