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せとうち美術館紀行 第15回 備前長船刀剣博物館

刀剣を通して日本の伝統美術工芸品の美と技を広める

備前長船刀剣博物館に関しての対談5

刀を通じてポーランドと国際交流、お互いを理解し合うきっかけに

山木:
備前長船刀剣博物館は、近年ポーランドとの交流が非常に盛んになってきているとうかがっております。日本の刀が武器という歴史としてだけでなく、むしろ美しい工芸品として海外の方に魅力を理解していただき、世界中から注目されるといいなと思っております。国際交流の実績と今後のプロジェクトについてお話しいただけますか。

対談の様子

館長:
国と国の交わりには経済、技術などがありますが、大切なのはお互いが相手の国を理解し、認め合うところにベースがあるのではないかということです。それを経験したのが、以前勤めていた電力会社での出来事です。電力会社が自由化され、外に向かって出て行かなければならないという思いから東南アジアに行きました。日本の経済発展を支えたのがエネルギーのインフラ整備でしたので、我々の技術を生かして東南アジアの発展に寄与したいと考えていました。「力になってほしい」と喜ばれ、夕食を一緒にしたのですが、「明日はどうされますか」と聞かれたので、「忙しいのですぐに帰ります」と答えると、「今まで私たちの国のどこを見ていただけましたか」と。正直いって私は何も見ていませんでした。すると和やかだったのが急に話が途切れ、「あなたもやっぱりビジネスですか」と言われたのです。

そういう経験があり、ポーランドで仕事をするときに心がけたのが、ポーランドのことをよく理解し、我々のことも知ってもらうということでした。ポーランドには2000振りの日本刀があります。ところが手入れをする技術がないために朽ち果てていっています。何か良い方法がないかと相談を受け、そこで日本刀に特化した当館とポーランドの博物館が交流し、技術を伝えて広めていけばいいのではないかと提言をし、交流が始まりました。刀は日本の文化を代表するひとつです。刀を通して交流を広め、日本文化を理解してもらおうと働きかけています。

山木:
具体的に活動につながっているものはありますか。

館長:
今年がポーランドと日本の国交樹立100周年でちょうど良い機会ということで、備前刀展をポーランドで開催します。主催はポーランドのManggha日本美術技術博物館。Manggha日本美術技術博物館は、Feliks Manggha Jasienski氏から寄贈された日本美術品を収蔵しています。ミドルネームのManggha(マンガ)は北斎漫画の漫画で、日本にすごく思い入れのある方です。その展覧会で備前刀を31振り、現代刀も6振りを展示することになりました。

山木:
いつ開催されますか。

館長:
2019年11月23日から2020年3月1日まで、100周年を記念して100日間開催します。ポーランドの方に日本の刀を見ていただき、日本の文化を楽しみ、感じてもらいたいと思っています。それとともにもうひとつ大事にしているのが、日本の文化を見て、ポーランドの、自分たちの国の文化を振り返る機会にしてほしいということです。この機会をさらに発展させ、今度はポーランドにある2000振りの刀のうち何振りかを里帰りさせて日本で展示させたい、そうすると単なる文化交流からもっと進んで人と人との交流に深められるのではないかと考えています。

対談の様子

山木:
2000振りのうち何振りかは鑑定されているのですか。

館長:
2000振りあるといわれていますが、いろんなところにあって管理ができていません。管理をどうしたらいいのかわからないというので、今回の交流を通じて相談の窓口を作る、あるいはポーランドの博物館同士が連携し、自国にある日本刀をどうするかを足並み揃えて取り組めるシステムづくりへ発展できたらと思っています。

山木:
学芸員の方々もポーランドに行かれたことがあるのですか。

館長:
杉原さんの前任者が一緒に行きました。今度の展示では安藤さんにも行ってもらい、実演したいと思っています。ただし問題があり、ポーランドにはブナのバーベキュー用の炭しかありません。それだと必要な温度まで上がらないのです。なんとか松炭を探したところウクライナにあるらしく、それで代用するか、あるいはバーベキュー用の炭で送風を強めにして火力を上げるかで対応しようと思っています。

山木:
大変な話題になると思います。

対談の様子

館長:
かなり大きなセレモニーになります。国交樹立100周年として話題性もあります。ポーランドをはじめ周辺の国々で日本刀がこれほどまとまって海を渡ってくるのは初めてのことで、ぜひ成功させて次の機会につなげたいです。

山木:
大きなチャレンジですね。成功することを祈っております。

館長:
ありがとうございます。

 

地域に密着しながら刀の新しい可能性を追求したい

山木:
最後に将来展望についてお聞かせください。刀剣女子という言い方が果たしていいのかどうかわかりませんけれど、若い世代の、特に女性が、刀をアニメーションのキャラクターと同一視して魅力を感じています。予想もしない形で日本刀に関心が集まっており、いい機運ではないかと思います。

館長:
1回目にポーランドに行ったときは、漫画家のかまたきみこさんと一緒でした。かまたさんは、『KATANA』シリーズと呼ばれる漫画を書いておられるのですが、今までの刀剣の見方、考え方と全く違うものが出てきたということで、これはこれで大切にしなければいけないと感じています。それをしっかり受け止め、どのようにつないでいくかを考えています。そうすれば刀の別の可能性も出てくるかもしれません。私としては、先祖たちが築いてきた日本の文化の伝承がいかに大切か、素晴らしいかをしっかり認識し、誇りに思いながら海外と対等に渡り合っていける子どもたちを育てる活動に力を入れたいと思っています。

山木:
杉原さん、安藤さんも最後に伝えたいことを一言お願いします。

対談の様子

杉原:
瀬戸内市では「山鳥毛里帰りプロジェクト」を現在進めています。「山鳥毛」は上杉謙信ゆかりの刀で福岡一文字の傑作です。この刀を購入しようというプロジェクトです。その柱は3つあります。まず「山鳥毛」があることが強みになります。そして、いい刀は現在すべて東京にありますが、それらはこの地で作られたもので、地元にももっといい刀があることを地元の子どもたちに大きくなったときに言ってもらいたい。さらに市長も言われていますが、刀匠さんたちのいい刺激になるような形で活用していただきたいというのがあります。

安藤:
「山鳥毛」もそうですが、過去にはものすごい名品がたくさんあります。私たち作り手からすると、平成、令和にかけて「山鳥毛」に負けない作品を残していかなければいけないと思っています。100年後、200年後に「令和の刀はちょっと…」と言われないように、「鎌倉時代の刀と遜色ない」と言われるぐらいのものを作っていきたいと思っています。

山木:
素晴らしいですね。そういうプロセスを実際に見ることができる備前長船刀剣博物館の強みをもっと多くの人に知らせたいと思いました。今日は本当にありがとうございました。

 

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