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せとうち美術館紀行 第15回 備前長船刀剣博物館

刀剣を通して日本の伝統美術工芸品の美と技を広める

備前長船刀剣博物館に関しての対談3

ボランティアの解説を聞き、刀の素晴らしさを実感する人がたくさん

山木:
来館者の方々はどんな様子で展示をご覧になっていますか。

対談の様子

館長:
二通りあります。たいていの場合、ボランティアの方が説明しながら一緒に回っているのですが、すごく一生懸命聞かれている方とそうでない方と両極端です。でもこれほどまとまって刀を見ることはないと思います。特に工房を回ったときは、こんなに多くの工程を経て、多くの職人が関わって細かい伝統技術にのっとって出来上がることを実感でき、最後は「来て良かった」と帰られます。

山木:
ボランティアの方は何人ぐらいいらっしゃるのですか。

杉原:
16人です。

山木:
刀剣に関心があって、自分から説明をしたいという方だと思いますが、年齢層や職歴など、どんな方がボランティアになっていらっしゃるのでしょうか。

杉原:
ボランティアの募集規定として、20歳以上の方、なおかつ頻繁に説明しに来られる方、そして大前提として刀が好きな方という3つの柱があります。ボランティアの方々の中には元館長さんもいます。もともとボランティアの設立自体が岡山で開催した国民文化祭の時に募集をかけていますので、それから引き続きやっていただいているかたちです。年齢構成はお年を召された方が非常に多いです。

山木:
ボランティアさんは熱心だし詳しいでしょう。教え方もうまいですよね。

館長:
ずっと接しておられますから何がポイントかをきちっと把握されています。

山木:
ちゃんとツボがわかっていらっしゃるのでしょうね。ご自分でもよく勉強されていますし。杉原さんは、鑑賞されている方の反応について、こういうことがあって良かった、ここをもっと発展させたいということはおありですか。

対談の様子

杉原:
企画段階で年間予定を出すのですが、ベテランの方はタイトルでだいたいどんな刀が展示されるのかがわかります。そういう方に限って来館されると、「今回の目玉は何?」と聞かれます(笑)。最初は「全部です」と話していたのですが、そうすると「だから何?」と聞かれます。そういう方は古刀を目当てにされているというのがだいたい分かりますので、企画をするにいたっては2つの点を重視しています。ひとつは何か学んで帰っていただくこと、もうひとつは必ず地元のものを入れること。地元といっても備前刀という大きなくくりではなく、本当にこの近くで作られた刀を展示品の中に入れ、それを目玉として出すことを考えています。

山木:
地域密着型なんですね。この近くというのは2、3km以内みたいな感じですか。

杉原:
備前刀の中でも特に有名なのが、福岡の一文字派と長船派という2つの派です。他にもいろんな派がありますが、その2つをピックアップして出し、この地域を回ってその人たちの足跡がわかるものを出したいと思っています。というのが長船派というのは当館の近くで作っていた人たちのことを指すのですが、いったん途絶えています。安藤さんは長船派ではないですよね。

安藤:
全く関係ないです。

今泉俊光刀匠記念館

杉原:
実は当館にはもうひとつ今泉俊光刀匠記念館という民俗資料館があります。今泉俊光さんは長船派ではないのですが、この地で刀がいったん途絶えたとき、地元の要請で刀を打ち始めた人です。それだけこの地が刀に誇りを持った場所であるということを子どもたちに見てほしいというのがあります。

山木:
それが身近な情報を中心にまとめたいという気持ちになって表れているわけですね。

杉原:
そうです。この近くに、最後の長船派の刀匠であった元之進祐定が私財をなげうって「ここは千年続く刀の産地だ」と作った「造剣之古跡」という碑があります。その題字を書いたのが、犬養毅です。犬養毅も刀が好きで、そういうかたちで地元の人たちが大切にしてきた場所を地元の人にもっと知ってもらい、岡山県、日本、世界に広げていきたいと考えています。

 

現代も続く刀づくり、工房が広める拠点に

山木:
刀を鑑賞する人たちが工房を回ったときの反応はいかがですか。

対談の様子

安藤:
とても喜んでくださっています。仕事をしていると「何をやっているんですか」って聞かれます。「刀を作っています」と言うと、「今でも刀を作っているんですね」と。つまり日本刀=古いものというイメージがすごくあって、工房を回ることで今でも日本刀を作っていることをわかってもらえるのがすごくうれしいです。そういうところが一番PRになるのかなと思っています。

山木:
刀鍛冶の数は増えていますか、減っていますか。

安藤:
刀鍛冶以外でも職方さんは減っています。人口が減っていますから仕方ないことだと思いますが、増やさなければいけないと思います。ただし今の日本刀のマーケットの規模で刀鍛冶を増やしていいのかというと、今の人数でも多いと思うんですね。だからマーケットを大きくすることが一番の仕事ではないかと思います。

山木:
刀鍛冶さんだけでだいたいどのぐらいいらっしゃるんでしょうか。

安藤:
全日本刀匠会の会員が約190名ですけれど、刀鍛冶として活動していなくても入っている方もいますし、入っていなくてもバリバリやっている人もいます。実際は140、150人ぐらいじゃないでしょうか。

山木:
本当に少ないですね。
先ほど文化庁の名前が出てきましたが、刀鍛冶さんとの関係はどういうものですか。

安藤:
刀は認可がないと作ることはできません。刀を作ったときに登録を取るのですが、それを管轄しているのが教育委員会、その上が文化庁なんです。また、ここの工房は刀鍛冶の試験会場になっています。

山木:
文化庁の中にはそういう技術を見極められる専門スタッフがいるのですか。

安藤:
試験の場合は刀鍛冶のスペシャリストがいます。そういう人たちに文化庁が委託して実地試験を行っています。

山木:
実技をしているところを査定するわけですか。厳しいですね。
その試験は全行程ではなくて1時間とか2時間とかでやるわけですか。

安藤:
8日間です。簡易的に作ります。一般的に刀を作るための鍛錬は10~15回行うのですが、試験では4回だけです。体力がいりますね。

館長:
私もいい機会なので見せてもらったんですけれど、初めから終わりまで一連を審査委員が見ています。

山木:
すごい試験ですね。びっくりしました。試験会場がこの工房というのはすごいことです。

館長:
ここまで設備が揃ったところが他にありませんので。

対談の様子

山木:
それ自体が誇りになりますし、権威ですね。一般の方々は知らないと思いますので、もっと積極的にアピールしたらいいんじゃないでしょうか。関連しておうかがいしたいのですけれども、研師さん、塗師さん、鞘師さん、金工師さんといった方々にも国家試験はあるのですか。

安藤:
ありません。

山木:
刀鍛冶さんが刀の形を作り、研師さん、塗師さん、鞘師さんとか、金工師さんといった方々に刀を渡して仕上げていただき、出来上がったときの最後に銘を入れるという意味では、刀鍛冶さんがプロデューサーというわけではないですけれど、スーパーバイズしていくのですか。

本当に好きな一振り、あるいは素晴らしい刀を作ろうとしたときにはそういう職人さんをチョイスすることもできるわけですね。

職人の仕事風景

安藤:
私のやり方として、会ったことのない人にはお願いしないです。いくらコンクールで賞を取った方でも。やっぱり気が合う人がいいですね。

山木:
コミュニケーションができて、気持ちを理解してもらえる人と一緒にということですね。

安藤:
そうです。技術はこの人の方が上なのだけれど、気が合うからこちらの方にお願いするということはよくあります。

山木:
そうでしょうね、よくわかります。ものを作るってそういうことだろうし、映画監督などものを作るみなさんがそうだと思います。

 

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