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せとうち美術館紀行 第15回 備前長船刀剣博物館

刀剣を通して日本の伝統美術工芸品の美と技を広める

日本刀は、武士が命を託してきた武器であると同時に、研ぎ澄まされた究極の美しさがあります。備前長船刀剣博物館は、数多くの名刀や、現代の刀匠たちによる刀作りを間近に見ることができます。古くから刀の産地として知られる岡山県・備前長船にある博物館ならではの魅力にあふれています。

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備前長船刀剣博物館に関しての対談1

対談の様子

■出席者

鳴門教育大学大学院教授 山木朝彦さん(以下山木)
備前長船刀剣博物館館長 白髭 修一さん(以下館長)
同館学芸員 杉原 賢治さん(以下杉原)
刀鍛冶 安藤 広康さん(以下安藤)

■対談日

2019年6月27日(木)

展示と工房の両面から伝統文化の技術を後世に伝えたい

山木:
備前長船刀剣博物館は刀剣専門の博物館ということですが、刀に関することわざはたくさんありますね。「反りが合わない」「元の鞘に収まる」「付け焼き刃」「相槌を打つ」「単刀直入」など、それだけ日本文化に深く根付いているということだと思います。

対談の様子

まず博物館の設立経緯や設立目的、運営方針についてお話しいただけますか。

館長:
入り口に設立趣旨を書いた碑がありますが、日本には270万振(ふり)の日本刀があるといわれ、その半分が備前刀です。また国宝111振のうち備前刀は47振あり、日本を代表する刀のひとつといえると思います。そのような先人の偉業を称え、伝統文化の技術を後世に伝えていく趣旨で館と工房が作られています。工房が一緒にある博物館というのは非常に珍しく、どういうことが昔から行われてきたかを身近に肌で感じることができます。子どもたちはもちろんですが、みなさんにぜひ見ていただき、いかに後世に伝えていくかを感じてもらいたいと活動しています。

山木:
設立はいつですか。

館長:
博物館ができたのが昭和58(1983)年、工房ができたのが平成16(2004)年です。

備前長船刀剣博物館内『刀剣の世界』エリア

山木:
工房を作られたのは見ていただいている方々から要望があったということでしょうか。

杉原:
元々は昭和58年に旧長船町の町立博物館という形で設立されております。そのときは長船町から出てきた土器や美術品が展示され、その中に刀剣が含まれていました。平成になり、旧邑久郡の長船町、邑久町、牛窓町が合併するにいたって刀剣だけに特化した博物館を作ろうという気運が高まり、工房を増設して生まれ変わりました。

山木:
工房はどういうものですか。

備前長船刀剣博物館 外観

杉原:
敷地内にあり、職人さんたちが刀を作っているところです。ここも見学できます。刀づくりは、刀匠(とうしょう)さんが熱した鋼を何度も打ち、折り返して鍛える鍛錬を行い、形を作り、焼き入れなどをした後、研師(とぎし)さんの手に渡ります。刀を生かすも殺すもこの研ぎの段階で決まってきます。そして、はばきを作る白銀師(しろがねし)さん、鞘を作る鞘師(さやし)さん、鞘に漆を塗る塗師さん、刀身に彫刻をする彫金師さん、さまざまな金具を作る金工師さん、柄を巻く柄巻師さんなどによって刀が仕上げられていきます。それらの工程が終われば刀匠さんの手元に刀が戻ってきて、自分の名前を彫る銘切りが行われます。最初と最後は必ず刀匠さんの手で刀は作られます。毎日作業を公開している職人さんと、日曜日・祝日だけ来られる職人さんがいて、集中してやらなければいけない作業や秘伝の技術は公開できませんが、映像を見ていただけます。

山木:
素晴らしいですね。展示室で出来上がった刀を見ると同時に、工房で刀を作っているプロセスの両方を体験できるのですね。

全国にある刀剣の博物館の中では新しいほうですか。

杉原:
普通です。新しすぎるかと言われるとそうではなく、当館より新しい刀剣博物館さんがあります。公立の博物館は、当館と岐阜県関市の関鍛冶伝承館くらいしかありません。当館は教育委員会の施設ですが、関市の場合は観光施設で観光部門が所管しています。他に公益財団法人の日本美術刀剣保存協会が管理している刀剣博物館が東京の両国にあり、私立では富山県に森記念秋水美術館などがあります。

岡山には刀作りに欠かせない材料、製鉄方法、マーケットがあった

山木:
岡山県立博物館にも刀がたくさん収蔵されています。そういう点からすると岡山県は刀を多く展示している県といえますが、そういう歴史、必然性があるのでしょうね。特にこちらの館がある備前は、古来から刀の産地として、また刀匠さんたちがたくさん工房を構えていたことで有名です。備前に集中していたのはなぜでしょうか。その必然性について刀鍛冶をされている安藤さんにおうかがいできますか。

対談の様子

安藤:
日本刀の五大産地は「五ヶ伝」といわれています。「五ヶ伝」は、備前伝(岡山)、相州伝(鎌倉)、美濃伝(岐阜)、山城伝(京都)、大和伝(奈良)があります。備前(岡山)以外は、いずれもその当時の中心でした。

山木:
当時の権力者が住んでいた場所だと。

安藤:
しかしなぜか備前の地だけはそういう有力者がおらず、国の中心になっていません。そこが不思議なところです。

 

[ここからしばらく『たたら』という製鉄方法についての説明が続きます。やや専門的なお話になりますので、タグの「解説編」をクリックして『たたら』についてのやりとりをお楽しみください。]

 

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