塗膜消耗劣化については精度の高い予測手法の開発を行っています。ここでは、塗膜消耗劣化予測手法の開発について紹介します。
塗膜消耗劣化予測手法の開発
塗膜劣化曲線のイメージ
本四高速の長大橋では、重防食塗装系の塗膜消耗により塗膜が消失する時期を下式により予測し、それまでに塗替えが完了するように塗替え期間を設定することを塗装の維持管理の基本としています。
また、多くの長大橋を有することから、この劣化予測は長大橋1橋毎に実施することを基本としています。
右図は、予測式による塗膜劣化曲線のイメージです。実際の予測は、塗膜の層毎の消失期間を予測式で算出し、それぞれを足し合わせることで計算できますが、消耗速度が遅い上塗り塗膜の消失期間が予測結果に大きく影響します。上塗り塗料は、ポリウレタン樹脂塗料からふっ素樹脂塗料、さらに高耐久性ふっ素樹脂塗料(HBS規格)へと耐候性が向上したことから、それらを考慮した精度の高い予測手法の開発が必要となります。
塗膜劣化曲線のイメージ
劣化予測に用いる計測データは、予測式で示される塗膜の消耗速度と残存膜厚の2つですが、それぞれの値にはばらつきを有していることから、ばらつきを把握するための調査方法、ばらつきのモデル化方法、およびこれらのばらつきを考慮したより精度の高い重防食塗装の劣化予測法を開発しました。
残存膜厚、消耗速度の実測
・残存膜厚
残存膜厚の測定は、カット式膜厚計測装置により各層の膜厚を測定します。この装置は、専用のドリルで塗膜を削孔し、削孔部を顕微鏡で観察して膜厚を切削面の塗膜の幅に換算して求めるものです。
膜厚計測の概念図
カット式膜厚計測装置
削孔部の顕微鏡写真の例
・消耗速度
消耗量の測定は、塗膜微破壊断面を微視的に観察することによる測定方法を定めています。調査する部材にあらかじめ保護塗膜を塗付して調査用定点とし、塗付した時点から定められた年数が経過した時点で、保護塗膜のある部分とない部分の膜厚の差を計測します。この計測を行うために境界部分を直線状に一定の角度で切込みを入れることができる機器「ペイントカッター」((株)ブリッジ・エンジニアリング)を開発しました。
調査用定点
この機器で溝を掘り、不連続部分でのシフト量を読み取り、切込み角度で換算することで消耗量を算出します。
ペイントカッター
(内蔵するドリル)
切削状況
消耗量の算出
なお、塗膜採取を行い、光学顕微鏡による断面写真から膜厚減少量を測定する方法も使用しています。
光学顕微鏡観察
光学顕微鏡写真
【参考文献】
大塚雅裕、楠原栄樹:「重防食塗装の劣化予測手法の開発」、土木学会構造工学論文集Vol.62A(2016年3月)