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せとうち美術館紀行 第4回 今治市玉川近代美術館

今治市玉川近代美術館 世界の美術館を楽しもう!

今治市玉川町の自然に囲まれた「今治市玉川近代美術館」。個人の所蔵コレクションをもとにした作品群には、画家・松本竣介を中心とした、近代絵画を代表する画家の名が連なります。同館では、美術を愛する心をさりげなく、けれど確実に伝えています。

徳生忠常氏と、創立功労者の大川栄二氏

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宙に浮いているような、独創的な吹き抜けのデザイン

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村山槐多詩集朗読コンサート

2月に行われた、村山槐多詩集朗読コンサート

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今治市玉川近代美術館に関しての対談1

■出席者

文教大学 国際学部 国際観光学科 専任講師 井上由佳
玉川近代美術館 館長 渡邊純二
玉川近代美術館 学芸員 白石和子

■対談日

2010年7月16日(金)

左:玉川近代美術館
  学芸員 白石和子さん
右:玉川近代美術館
  館長 渡邊純二さん

文教大学 国際学部 国際観光学科
専任講師 井上由佳さん

玉川近代美術館の沿革と、創設者・徳生忠常の想い

井上:
玉川近代美術館さんの地元での愛称などはあるのでしょうか。

館長:
特にはないんですよ。

井上:
それは逆にいえば自由に作られますね。自分たちでこう呼んでください、と出していくのもいいかもしれませんね。
市のレベルで作っている美術館で、日本で最近注目されているのは石川県の金沢21世紀美術館などがありますが、こちらは建物なども特徴があり、ひらがなで『まるびぃ』なんていうようですが、そんなふうに建物にちなんだ名前や、たまがわという素敵な名前がついてられるので、何か作られるのもいいですね。
では、玉川近代美術館の沿革など教えていただけますか。

館長:
この美術館は、玉川町出身の実業家で徳生忠常(とくせいただつね)という人物が、館の建設費など全資金一切を提供して建築し、市に寄贈して、昭和61年12月にオープンしました。

井上:
それは、まだ存命のうちにオープンされたのですか?。

館長:
そうです。

井上:
玉川町にいらしたんでしょうか。

白石:
いえ、東京です。丸興(マルコウ)という百貨店をしておりまして、後にダイエーの傘下に入りました。この地域はローン商法が発祥といわれていて、そのローン商法によって成功したようです。 最初は、丁稚奉公というんですか、いわゆる底辺から始めて、奉公先からのれん分けしてもらい、丸興を興したということです。

井上:
ご自身も絵の方をされていたのでしょうか。

白石:
いえ、自身での制作は聞いてないんですが、コレクションはありました。ご自身ではなく、徳生さんが、ご自分の会社がダイエーの傘下に入ったときに、ダイエーの副社長をしておられた大川栄二さんに出会われたんですが、この大川さんが「美の経済学」という本をお書きになっていて、これを読まれて非常に感激をされたんです。というのも、大川さんは美術のコレクターでもあったのですが、その本では美術に関する想いを表わしてられて。
そのとき、徳生さんには、「美術館」という具体的な考えはなかったのですけど、何か、郷土に文化的なものを残したい、という気持ちがずっとあったようです。
大川さんは、経済界では徳生さんの後輩にあたるのですけれど、すべての大川さんのコレクション作品を基盤にしたものが寄贈されて(創立された)、という形の美術館です。

井上:
コレクション作品が分散されることなく、所蔵されていたものをまとめて寄贈されたということですね。美術館の建物はどなたが作られたのですか。

白石:
この美術館のコレクションの中に、松本竣介という画家がおりまして、この画家を主軸にしてコレクションされております。それをコンセプトにしているのですが、この松本竣介さんのご子息の松本?(カン)氏が設計して、父・竣介の絵を展示するイメージで作られたと聞いています。

井上:
何か具体的に表されていますか。

白石:
ええ。2階に、第3展示室という小さな部屋がありまして、そこがちょっと教会のようなイメージになっています。その第3展示室に父親の作品を展示するというイメージだったようなんですね。

井上:
なるほど。設立にあたっては、やはり郷土に文化的なものを残したいという思いがあったのですね。

若い世代へつなぐ、美術とのふれあいの場

白石:
徳生の中には、特に、若い人たちのために何かしたい、という思いが強かったと思います。今も、地元の子どもさんたちは館をよく利用してくれているんですよ。

井上:
どういう利用の仕方をされていますか。

白石:
学校の一つの行事として、例えば遠足とかですね。また、美術の授業の一貫として訪れてもらったり、また、玉川町自体のワークショップを行ったこともあります。
とにかく、地元の方には大変に支持していただいていると思います。いろいろな団体の方たちも利用してくださったり、協力していただいたりして、とても助かっております。

井上:
例えば、学校で遠足などで来られた場合に、どのような対応をされているのですか。

白石:
団体で、一度にワッと来るわけですね。ですので、2班くらいに分けまして、自由に(絵を)見せながら説明をして、そして模写もしてもらうんですね。
自分が気に入った絵とか、心に残った絵を模写してもらい、その後に必ず私にラブレターを書くようにお願いをしてます(笑)。その中で色々なことを書いてくれますね。
こんなふうに(見せて)。これは、私たちの財産ですね。

井上:
(見て)素敵ですね。

白石:
ええ。子どもたちも色々と感想を書いてくれます。結構しっかりとした感想ですよ。ハッとさせられる、目から鱗のようなことが度々ありますね。子どもの感性は素晴らしいと思っています。

井上:
そうですね・・・子どもの頃に美術館に行って、楽しかったとか、いい時間を過ごせたな、という思いは生涯、残っていくもんですよね。

白石:
ええ。ですから小学校の頃に来られたお子さんが、中学生、高校生になってから、また来たいと言って来館されることもありますし、やはり(一度)見てもらわないことには感動も生まれないと思います。

井上:
(読んで)ここに、『学芸員の白石さんが親切に教えてくれて』と書いてありますね(笑)。美術館、美術教育もそうなんですけれど、作品と来てくれた人々を結びつけるには、やはりただ見ているだけでは、なかなか作品に入っていけないとか、専門家ではないので知識がなく、作家の名前や作品名で「あ!」とピピっとくる人がやはり限られてしまっているのが現状です。ですが、子どもはその分まだ感性が柔らかくて、知識が邪魔しないところもあるので、『これ面白い!』とか『これキレイ!』『汚い!』『こわい…』とか楽しんでいるんですけど、人が入って、それが学芸員さんだったり、館によってはボランティアの方だったり、そこで、作品と人を介して対話をする、子供同士も自由に知り合う、そこでみんなでワイワイと作品の前で過ごしたことが楽しかったということが、このお便りを見ていると、実現されているな、と感じます。

白石:
学校の美術教育ではないので、そこのところは違うように接していかなければならないな、というのはいつも私も思っています。

井上:
そうですね。

白石:
自由に、好きなように感じてもらいたい、と思っていますので、あまりこちらも知識を押し付けたりしないで、と。もう、いろんな質問がきますから(笑)

井上:
ええ、結構ドキドキしますよね。

白石:
けっこう鋭く見てるな、と思って嬉しくなります。

井上:
中学校との交流というのもありますか?

白石:
ええ、ありました。今は、部活や受験などで、先生方も忙しくてあまりないんですが、以前、小学校と中学校に一度『出前講座』を行ったことがありました。
中学校へは、当館で版画『東海道五十三次』を持っているんですけど、それを何点か出張出前として持って行き、いろんな話をして、興味を持ってもらいました。

井上:
東海道だと、四国からはちょっと遠いですね。

白石:
ええ。ですが、東海道五十三次あたりだと、中学生はちょうどみんな知っている頃なのでね。

井上:
なるほど。私も地元が湘南の茅ヶ崎なので、東海道はまさにここ、なんですけど、住んでいるからといって子どもたちも地元のことを知っているとは限りませんしね。
そういう意味では、美術作品を通して地域のことを知る、さきほど郷土作家の方の作品も拝見しましたが、この作家は愛媛のどこで、どんな環境で育って、こういう作品を生んだのか、というようなことを追体験できるような機会ができると、すばらしいと思いますね。

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